従来の抗がん薬や分子標的薬の開発においては、早期試験において単独療法で臨床効果が観察されなかった薬剤を併用療法として用いても開発が成功する例は乏しく開発が中止されることが一般的であった。癌と宿主免疫系は細胞と細胞の接触を介する直接のやり取りだけでなく、腫瘍微小環境や各種液性因子をも介した複雑な相互関係から成り立ち、理論上はがん免疫療法単独では抗腫瘍効果を発揮しない場合でも、複数の治療を組み合わせること(複合)によって抗腫瘍効果を発揮しうると考えられるため、従来の殺細胞性の抗がん薬や分子標的薬における併用療法とは異なる開発戦略が成り立つ余地がある。理論上、複合がん免疫療法の開発においては、各併用薬の投与量や投与タイミング(同時あるいは投与の順番)、その適切な組み合わせなどを検討すべきであり、さらには宿主の免疫状態を悪化させることなく長期的な抗腫瘍免疫応答に基づく臨床効果の持続が期待できる併用療法を追求する必要があると考えられる。がん免疫療法においては、従来の抗がん剤や分子標的薬剤の開発とは異なり、必ずしも開発薬剤が動物モデルでは作用しない(薬効を発揮しない)場合がある。この場合には、早期臨床試験の段階で、1)患者におけるMOA(mode of action)の確認、2)臨床効果や副作用(irAE)と各種免疫因子との関連の検証、3)治療抵抗因子の同定、4)新規治療標的の発見 5)reverse TR (基礎研究者への還元)を行うことがより重要となる。また、臨床開発の成功確率を高めることや医療経済的な観点などから、治療効果を予測するバイオマーカーの開発によって適切な患者選択を行なっていくことの重要性も高まっている。抗腫瘍免疫応答は様々な因子が、空間的・時間的に相互作用する複雑な関係によって成り立つため、癌種や病期、さらには、単剤投与か各種併用療法の治療の組み合わせ方によって、患者選択に寄与するバイオマーカーが異なることが推測される。バイオマーカーは単一因子ではなく、治療対象や治療方法毎に、異なった複数の因子の組み合わせたスコアリング化に向かう可能性があり、多数の因子を統合解析するためには、バイオインフォマティクス技術の導入が不可欠であると考えられる。