内閣に設置された統合イノベーション戦略会議によって決定された「AI戦略2019-人・産業・地域・政府全てにAI-」(令和元年6月)では日本におけるAI戦略が示された。令和3年にはそのフォローアップである「AI戦略2021」が発表され、AIと他の応用分野とを融合する取り組みが徐々に進みつつあることも報告された。しかしながら、特に新薬の臨床開発分野へのAI導入は他分野と比較して遅れていることは否めない。その原因として臨床試験で取り扱うデータは秘匿性が高く、かつ情報の処理が古典的であることを前提として収集されていることが考えられる。その一方で、ビッグデータを使いコンピューターに学習させることにより、これまで専門家による分析やその分野の匠の経験に頼っていた特徴抽出やパターン認識分析を自動的に行うことが可能になってきた。少しずつではあるがアカデミアもしくは製薬企業を中心として、AIと薬物動態・効果および副作用の定量的情報を統合する臨床薬理研究が試みられている。さらに、グローバル開発で利用されているModel-Informed Drug Development(MIDD)を実装する際の意思決定ツールとして、今まさに人工知能の利活用が盛んに検討されている。本シンポジウムを通じて世界的な新しい動向を把握し、臨床薬理学会および薬理学会に人工知能研究を波及させるための端緒としたい。