現在、人工知能(AI)といわれる技術のほとんどは、データを基に機械自ら学ぶ機械学習技術を指す。数式をモデルとしてデータにあてはめる回帰分析や、複数の決定木を組み合わせたデータの分類など、機械学習の範疇は多岐に渡る。近年は機械学習のなかでも、回帰や分類などの目的タスクに有効な特徴の抽出方法も含めて、データから直接タスクを実現するモデルを構築可能な深層学習の発展が著しい。深層学習で広く用いられるのは、神経細胞の仕組みを模した数理モデルである人工神経回路網(Artificial Neural Network: ANN)を多層化した深層神経回路網に基づくものである。所望の形で出力するようにANNのアーキテクチャを設計することで様々なタスクへの適用が可能であり、機械学習を応用して様々な問題を解決するアプローチが、特徴量および学習アルゴリズムの設計からアーキテクチャの設計にシフトしつつある。従来、十分な精度でのモデル化が困難であった事柄もANNによりデータから自動的にモデル化できる一方、学習パラメータが膨大であるため、大量の学習データを必要とする点や入力に対するモデルの挙動を説明することが難しい点など実用上の課題も多い。AI技術の実活用に関する国際的な動向として、2019年5月に日本を含む複数国間で合意した経済協力開発機構のAI原則にある、人間中心の考えに基づく「責任あるAI」の開発と使用に取り組む国際的な枠組み、Global Partnership on AI(GPAI)が2020年6月に設立された。GPAIのワーキンググループにおいてCOVID-19に関連するAIツールを分析した結果、倫理/法規制、信頼できるデータへのアクセスの困難さ、信頼性の不足といった課題が指摘されている。さらに、GPAIのプロジェクトの一つとして創薬のためのAIが発足するなど、国際的に注目される責任あるAIが臨床薬理の分野において果たす役割は大きい。責任あるAIの実現に向けては、秘匿性の高いデータを開示することなく分散学習が可能な連合学習や、モデルのブラックボックスを解消する説明可能なAIといった技術に期待が寄せられている。
本講演では、薬物動態(PK)モデルにおけるPKパラメータをANNでモデル化することで高精度化を図りつつ、コンパートメントモデル解析することでANNの過剰適合を抑制したANN-PKモデル、およびモデルの解釈を説明可能なAI技術により実現した我々の取り組みを、人工知能研究の現状や国際動向を含めながら紹介する。