従来,個別化医療を提案する一つの方法として薬物治療モニタリング (TDM) が用いられている。TDMにより患者個人毎の血中薬物濃度を調節することで、有効かつ安全な投与量を導き出すことが行われている。一方で,安全性上の問題は同一の血中薬物濃度であっても,患者個人間で薬理効果発現の有無が異なり,必ずしも薬物濃度だけでは説明できないことも知られている。新薬の開発段階ではファーマコメトリクス (PMx) を用いて,有効でかつ安全な投与量が決定されてきている。たとえば、母集団薬物動態-薬力学モデルや曝露反応解析は、臨床試験で得られる薬物濃度データ、有効性及び安全性評価項目をもとに患者集団における最適な用法用量の提案に活用されている。しかし,これらを実臨床の場で用いるには,様々な理由により難しいことも事実である。
臨床現場の意思決定に機械学習モデルが用いられるケースが近年報告されている。感染症分野では、薬剤の治療効果及び副作用予測を目的とした機械学習モデルが構築され治療方針の選択に貢献している。そこでメチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症治療に用いられている抗菌薬リネゾリドを例に,機械学習による血小板減少の副作用発現予測について検討を行った。機械学習モデルはその複雑性と解釈性から用途に応じた適切なモデルを使用する必要がある。その中でも決定木は分類及び回帰問題に使用される手法で、関連する因子とそのカットオフ値を提示できることから解釈性が高い。リネゾリドを投与された患者を対象に、薬物濃度、血小板数及び背景情報を収集し、標準的な治療期間経過後の血小板減少症と関連する因子を網羅的に分析した。その結果、リネゾリド投与後の血小板減少には、治療開始後早期の薬物濃度及び血小板数がその後の血小板減少に関連することを提示した。機械学習モデルにより抽出された関連因子を活用することで患者の副作用発現の早期予測が可能となる。一方、患者で精度よく用量調節を行う場合はPMxモデルも有用である。両方の利点を理解したうえで活用することが望ましい。