多くの臨床研究者は、その教育課程において臨床研究に必要な知識や技能を体系的に学んでいない。臨床研究に積極的な機関に勤務し、治験や臨床研究に参加することが多くても、研究者自身は臨床研究に必要な知識や技能を体系的に学ぶ機会は多くなく、大学や病院の先輩医師のやり方、もしくは過去に参加した治験のやり方をそのまま真似るか、もしくは誰かに委ねる、こととなる。一方で、臨床研究は多くの脆弱な患者を標本とすること、未来の多くの患者の診療に影響を与えることから、研究の実施は、信頼性が高く、科学的な手段を用いるだけではなく、最大限公正であり、また倫理性が高くなければならない。しかしながら、臨床研究の公正にかかる事案は世界中で後を絶たず、政府や学術機関は規制や教育活動などの対策を行っているが、その効果は明らかではなく、研究公正に関する教育が講義などの受動的なものであることが不適切な研究活動に関連していることが報告されている。臨床研究スキルを身につけても、研究公正が伴わなければ、非倫理的な研究が実施され、逆に研究公正を声高に喧伝しても、研究スキルが伴わなければ、信頼性の低い研究が報告される。そこで、研究公正に関する受動的な教育から転換し、臨床疫学や生物統計学などの臨床研究スキルと組み合わせ、能動的に学習できるトレーニングプログラムを開発し、多くの臨床研究者に展開してきた。トレーニングプログラムは、2泊3日から4泊5日の合宿形式で、5~6人のグループ毎に仮想研究を設定し、シミュレーションを行うものである。具体的には、研究テーマの設定から論文作成(発表)に至る仮想研究のシミュレーションでは、講義や仮想データを用いた統計演習などを行い、最終的に各グループが仮想研究を報告する。その過程で、各グループは研究公正、倫理上の問題をはらんだ状況に強制的に遭遇する。参加者は、臨床研究を実施する上で、研究公正に関する知識や問題解決の能力は、科学的で公正な臨床研究を遂行するためのスキルの一つであることに気づき、研究公正センスを身につけることができる。臨床研究者にとって、学習意欲の高い臨床疫学や生物統計学に関する学習過程の中に、研究公正や研究倫理に関する学習を統合した形で組み入れ、科学的な研究技術と公正な研究態度の両方を同時に身につけるトレーニングプログラムの有効性と今後の課題について、議論したい。