近年、Patient Centricityの概念に基づき、患者の声を直接入手し、医薬品開発や臨床試験計画に活かす取り組みが製薬企業でも広がりつつある。このような取り組みが広がることで、患者の臨床試験への理解並びに参加を促進し、ひいては医薬品開発の促進と患者の新薬へのアクセス向上につながることが期待されている。一方、現在の臨床試験は患者が実施医療機関へ来院し評価を受ける方法が主流であるため、実施医療機関が遠方の患者や疾患や身体機能の程度により定期的な来院に制限がある患者にとって、臨床試験への参加は困難である。このような課題に対して、実施医療機関に集約された臨床試験プロセスを分散化させて、患者が実施医療機関へ来院しなくても臨床試験に参加できる新しい臨床試験手法(分散化臨床試験、Decentralized Clinical Trial、以下DCT)が医薬品開発の有効な手段の一つとして、国内外で検討されている。
日本製薬工業協会医薬品評価委員会臨床評価部会では、DCTの活用に向けた検討を行うためのタスクフォースを2019年度より立ち上げ、海外動向やDCTの手法を国内で実施する場合に想定される課題等を幅広く調査し検討してきた。タスクフォースでの検討結果は報告書として公開している。
本発表ではこれまでタスクフォースで検討してきたDCTの考え方やDCTの各手法(オンライン診療・訪問看護・ウェアラブルデバイス・治験薬の患者への配送・eConsent・近隣医療機関との連携)の紹介と、国内で実際の臨床試験に導入する場合に想定される課題について製薬企業の立場から紹介する。個々の臨床試験へのDCT手法の導入は製薬企業だけで完結することではなく、依頼者となる製薬企業側が様々な関係者との協議や連携を行うことが必要不可欠である。日本で患者ニーズを本質的に捉えたDCTが臨床試験のひとつの選択肢として定着していくために、臨床試験に携わる全ての関係者と製薬企業で活発な議論や導入に向けた協働が期待される。本発表が今後の医薬品開発の促進並びに患者の臨床試験への参加機会向上に向けた発展的な議論のきっかけになれば幸いである。