コロナ禍によりオンライン診療の規制緩和が行われ、DCT(Decentralized Clinical Trials)の概念もここ数年で随分と浸透して来た印象がある。しかしながら、DCTエレメントを活用した臨床試験/治験は、まだ実際にはそれほど多く実施されていない。そもそもDCT自体が各種の要素技術を組み合わせて実施されるため、全てのプロセスがリモートで行われるとは限らず、一部にのみDCTエレメントを取り入れ、被験者の来院回数を減らすようなハイブリッド型DCTとして実施されている事例も多い。
 Oncology領域では、特に希少がんや希少フラクションに対する医薬品開発においては、治験実施機関が都市部に集中する一方で、患者は地域に依らず発生するためにDCT導入の親和性は非常に高い。実際、DCT導入によって患者にとっての治験へのアクセスが劇的に改善されるというメリットがあり、実施側にも被験者登録の大幅な迅速化、治験実施施設で求められていた倫理審査、モニタリング等がパートナー医療機関で不要になることによる手順の簡略化、それらの帰結としてのコスト削減といったメリットが存在する。こうした背景もあり、今年になって、がん専門病院においてフルリモートの医師主導治験が始まった。当院においても、同様のスキームの導入を行うべく検討を開始した。
 一方で実際の治験のDCT運用にあたっては超えるべきハードルも多い。eConsentの手順(本人確認、電子署名、説明補助動画の取扱等)、被験者への治験薬直送や併用薬の処方、パートナー医療機関の選定プロセスや業務分担・契約、CRCやリエゾン等のスタッフの適正な配置、費用徴収やオンライン診療等に関する院内調整、パートナー医療機関とのデータの授受方法、用いるべきDCTプラットフォームなどがその事例であり、法制面、オペレーション面、システム面等で、まだまだ解決しなければならない課題は多い。
 当日のシンポジウムでは、これら各種の課題について、解決の方向性について言及していきたい。また、合わせてシンポジウム参加者の方々から、DCTに関するご意見、ご要望の声を伺い、より良い発展のための機会としたい。