【背景と目的】希少難治性疾患(RD (rare disease))を取り巻く課題として、研究開発の財源確保の難しさや、患者や家族の経済的負担などが指摘されている。それらを軽減するための経済的な手当てがなされているが、限りある資源を配分する正当化根拠が問題となる。そこで本調査では、RDと関連する資源配分について市民の意識を明らかにし、RD領域への経済的な手当てを許容する要素の検討を目的とした。
【方法】調査会社の調査者パネルから抽出した20-69歳の日本居住者11,019名に対して、オンライン無記名自記式調査を実施した。調査項目は、RDに関連する言葉の認知度、RDのイメージ、医療費負担や研究開発費の支援に関する考え方などとした。調査期間は2022年1月下旬であった。
【結果】回答者の9.9%が自身や身の周りの人がRDにかかった経験があった。「難病(指定難病)」「高額療養費制度」などは認知度が高かった(8~9割)。RDの特徴として、「病気の詳しい仕組みがわからない」「患者や家族の経済的負担が大きい」「治療法が少ない」「人生設計に影響を与えることが多い」などはイメージされやすく、「働き盛りの年齢に発症しやすい」「子どもに発症しやすい」「長く生きられない」「先天的な遺伝子の変化が原因である」などはイメージされづらかった。また、RDの患者数は、人口の0.01%程度と考える人が多かった(70.5%)。RDの治療薬の費用を公費で一部負担することについて、成人領域・小児領域とも6~7割が賛成し、主な理由は「患者や家族の経済的負担が大きい」ことであった。「長く生きられない」「先天的な遺伝子の変化が原因である」「働き盛りの年齢に発症しやすい」などは理由として挙げられづらかった。RDの新規治療法を国民皆保険制度の対象とすべきと考える人は65.7%で、主な理由は「患者や家族の経済的負担が大きいこと」であった一方、「先天的な遺伝子の変化が原因である」「長く生きられない」などは理由として挙げられづらかった。
【結論】RD領域への資源配分を市民が考える際に、医療・研究で重視される疾患の疫学的特徴よりも、生活上の困難や経済的負担を重視することが示唆された。「患者数の少なさ」は、本調査回答者の意見形成において重視される要素ではなかった。RDの疫学的特徴や量的な基準など、専門家と市民の認識の乖離を少なくすることが、RD領域への経済的手当てを正当化する前提として必要である。