精神疾患は糖尿病をもつ人にしばしば合併する。糖尿病患者の約3割はうつ症状を有し、約1割がうつ病と診断されている。また、統合失調症は糖尿病の合併が一般人口の2倍多い。精神疾患と糖尿病が合併すると、互いの疾患が双方向性に治療効果を妨げてしまうことがある。例えば糖尿病の治療自体がストレスになって精神症状の悪化をきたすと、自己管理が困難となって糖尿病が悪化するなど悪循環となりやすい。糖尿病の発症や進行に関連する因子として、精神疾患の症状、抗うつ薬や抗精神病薬など向精神薬の副作用(食欲亢進、寡動)、偏食・運動不足などの生活習慣、身体的ケアの不足や服薬管理の問題など、複数の対策すべきポイントが指摘されている。
当院は精神科主体の病院であるが、内科および糖尿病外来を併設しており、精神疾患と糖尿病の併存例が少なくない。院内での検討では、精神疾患合併群(以下合併群)と非合併群を比較すると、糖尿病重症例の割合は合併群の方がやや多かったが、一方でHbA1cは両群で有意差を認めず、合併群にはHbA1c<6.0%のコントロール良好群も多く分布していた。合併群でも非合併群と同等、あるいはむしろ良好な治療効果が得られる場合がかなりあることがわかっている。
精神疾患をもつ人の中には、治療内容の理解、自己管理、注射や自己血糖測定の手技習得に問題があったり、大量服薬による低血糖・自殺企図のリスクがあるケースも存在する。こういった場合、インスリンや、SU剤およびグリニドといった血糖非依存性インスリン分泌促進系薬剤の導入は困難となる。一方で、低血糖のリスクが少ないDPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬は比較的使いやすい。特にGLP-1受容体作動薬はその食欲抑制効果が治療の大きな助けになり、注射の問題も、週一回の製剤であれば訪問看護やデイケア通所などの機会を利用して解決できるケースをよく経験する。
精神科主治医から内科医へ病歴や薬歴、自己管理が困難な場合のキーパーソンの情報、自殺企図リスクの情報を十分伝え共有することと、医師に加えメディカルスタッフが患者や家族と協力して糖尿病の療養指導にあたることも治療効果の向上に極めて有効である。
治療困難という先入観を持たず、精神疾患と糖尿病を併せ持つ人が治療を受けられる機会が充足していくことが望まれる。