糖尿病治療の目的は、細小血管合併症のみならず心血管系合併症の発症・進展を阻止すること、健康な人とかわらない寿命とQOLの達成である。さらに、小児(若年者)の糖尿病においては、糖尿病のない児と変わらない精神的・肉体的発育が加わる。一方、妊婦の糖尿病においては、児の先天異常の予防、児の過剰発育の予防、児・母体双方における周産期合併症の予防が加わる。
これらを達成するための血糖コントロール目標としてHbA1c7%未満を達成することが求められている。妊婦においては、HbA1c6-6.5%未満、空腹時血糖値95mg/dl未満、食後1時間血糖値140mg/dl未満、食後2時間血糖値120mg/dl未満と更に厳しい目標が設定されている。
安全性の面から問題なく処方できる薬剤は、小児では、インスリン、メトホルミン、SU薬のグリメピリドのみ、妊婦ではインスリンのみ(海外ではメトホルミンを可とする国もあり)である。
治療目標のゴールドスタンダード指標とされている、HbA1cは過去2-3ヶ月の平均血糖値の指標であり、血糖コントロール状況を容易に確認できるため、世界中で用いられている。しかしながら、HbA1cにより血糖変動を評価する事は不可能である。
一方、糖尿病の薬物療法においては、低血糖をできる限り引き起こさないことが大切であるが、HbA1cからは低血糖の有無について把握し、評価することは、困難である。
これらの解決策となるのが、24時間の血糖変動を測定できる持続血糖モニター(Continuous Glucose Monitoring : CGM)である。2010年より我が国においても保険診療にて使用可能となったが、2018年12月より保険適用となったリアルタイムCGM機器は、直近に測定した血糖値を常に確認できるため、患者自身による自己管理において極めて強力なツールとなる。
さらに、低血糖や高血糖を予測して、インスリン注入を自動で増量したり停止したりするインスリンポンプが2022年から適応を満たす症例において、使用可能となり、低血糖を起こさず、血糖変動を狭めつつ、良好なHbA1cを達成できる症例も増加してきた。
小児および妊婦における薬物療法をいかに安全に行うべきか、以上の機器の知見を含め、HbA1c値の低下のみを目的とした治療ではなく、血糖変動の正常化をもたらす治療の現状と課題について述べたい。