患者腫瘍移植モデル(PDXモデル)は、患者腫瘍における腫瘍不均一性や構造を維持した、創薬開発研究に有用な新しい担がんマウスモデルである。国立がん研究センターでは本邦における創薬開発の加速と、患者へ迅速に適切な抗がん薬を届けることを目指し、日本人がん患者由来PDXライブラリー(J-PDXライブラリー)プロジェクトを2018年より開始している。PDXモデルはバイオリソースの一つであるが、細胞株や凍結腫瘍検体などの他のバイオリソースと異なり、患者情報がひもづく、繰り返し利用が可能であることという特徴がある。しかし、PDXモデルの利活用にあたっての倫理的・法的・社会的課題は未だ整理されていないのが現状である。今後の創薬開発研究でさらに重要性が高まると期待されるPDXモデルにおいて、このような課題を整理することは喫緊の課題である。J-PDXライブラリーにおける創薬開発研究での利活用の現状と、今後の展望について概説する。