現在、私たちヒトの医療ならびに社会では、新型コロナウイルス感染症による未曾有のパンデミックがみられている。2019年末の発生以来、既に全世界で5億人以上が罹患し、600万人以上の死亡が報告されている。推計も含めると世界で最も主要な死因のひとつとなっており、感染症による危機的な状況がいまだ継続している。加えて、近年では、市中感染型MRSA、ESBLs(基質拡張型β-ラクタマーゼ産成菌)やCRE(カルバペネム耐性腸内細菌目細菌)、多剤耐性緑膿菌、主要な抗菌薬関連下痢症であるClostridioides difficile感染症などの、様々な病原微生物による市中や日和見感染症がみられているとともに、これらの病原微生物は伴侶動物を含めた人獣共通感染症として、また環境を介した伝播経路の重要性が指摘されていることから、わが国ではワンへルスを含めた薬剤耐性アクションプランが実施されている。
このような薬剤耐性菌などの難治性感染症に対しては、抗菌薬の適正使用に加えて様々なアプローチが必要である。従来、わが国では、感染性胃腸炎などにプロバイオティクスが広く投与されていることに加えて、近年では新たに基礎的・臨床的にも新たな知見が生まれている。また、わが国におけるC. difficile感染症診療ガイドラインでは、抗C. difficile薬の他、予防薬としてのプロバイオティクスの活用が明示されており、大きな特徴となっている。これらの複合的・専門的な診療を適切に行うために、現在、医療施設では抗菌薬適正使用支援チーム(Antimicrobial Stewardship Team:AST)が活動を行っており、2022年度の診療報酬改訂では、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックを契機として、感染対策向上加算に診療所、医師会、保健所などの行政機関との連携強化が明示され、より一層の地域連携が行われつつある。感染症対策が医療機関だけでなく、社会を含めて行うことの重要性が指摘されるなか、医療と社会が相互に新たな知見を共有するとともに、更に発展することが期待されている。