【目的】
進行性家族性肝内胆汁うっ滞症1型(PFIC1)は、細胞膜で働くリン脂質フリッパーゼをコードするATP8B1の遺伝子異常を原因として発症する常染色体劣性遺伝疾患である。本疾患は、乳幼児期に遷延性黄疸として顕在化し、思春期までに胆汁うっ滞性肝硬変へと進行する。本疾患においては、肝移植後、脂肪肝炎に端を発するグラフト機能不全を来たす等、有効な治療法は確立していない。本疾患克服のため治療法開発が急務であるものの、ATP8B1の分子機能の破綻が上述の病態を来す機序は不明である。本研究では、肝移植後PFIC1患者における病態発症機序の解明に取り組んだ。
【方法】
ATP8B1はユビキタスな組織分布を呈する。Cre/loxPシステムを用いて細胞種特異的にATP8B1を欠損したマウスを作出し、表現型解析を実施した。
【結果・考察】
腸管上皮細胞特異的ATP8B1欠損(IEC-KO)マウスは、メンデル則に準じて出生した。出生時体重はコントロールマウスと同等であるものの、4週齢時には成長障害を来たした。本マウスは、4週齢時にはAST、ALT高値を示したため、肝臓の病理組織学的解析を実施した。その結果、脂肪滴蓄積に加え、好中球等の炎症性細胞の浸潤が観察され、本マウスが肝移植後PFIC1患者と同様に脂肪肝炎を発症していることが明らかとなった。脂肪肝炎の原因探索のため腸管上皮細胞、血液、肝臓を対象としたメタボローム、リピドーム解析を実施した。本マウスでは、コントロールマウスに比して、血液、肝臓中のコリンが欠乏していた。コリン欠乏症が脂肪肝炎を惹起することは広く知られている。IEC-KOマウスにコリン補充食を給餌したところ、本マウスの脂肪肝炎が解消した。生体内コリンの原料は、食事中に含まれるホスファチジルコリンの分解産物(LPCまたはコリン)の腸管吸収に由来する。上述のリピドーム解析、及びATP8B1発現細胞を用いた輸送実験から、IEC-KOマウスでは、腸管上皮細胞の外膜にLPCが蓄積し、体内へのLPC吸収量が著明に減少している可能性が明らかとなった。一方、LC-MS/MSによる糞中成分解析では、IEC-KOマウスのコリン吸収能は正常であることが確認された。
【結論】
ATP8B1は腸管上皮細胞においてLPC吸収を担っており、その機能破綻はコリン欠乏症、ひいては脂肪肝炎を惹起する。PFIC1の肝移植後脂肪肝炎に対するコリン補充療法の妥当性を明らかにすべく、本知見に関し、PFIC1患児への外挿性について評価中である。