【目的】近年、高血圧症、脂質異常症、糖尿病によるマルチプルリスクファクター(MRF)症候群としてメタボリックシンドロームが注目されており、動脈硬化性疾患発症のリスク増加に重要な役割を演じていることが示唆されている。MRF症候群における高血圧症は、脂質異常症や糖尿病が血圧に影響を及ぼしている可能性が否定できないことから、高血圧症のみとは分けて考える必要がある。一方で、2019年4月に高血圧治療ガイドラインが改訂され、本態性高血圧の降圧目標が引き上げられたことから、より積極的な介入が求められるようになった。今回、ガイドライン改訂前後において、外来診療時血圧および高血圧治療薬の使用実態を調査し、降圧目標に対する治療実績を比較することで、ガイドラインの改訂が実臨床に及ぼす影響について調査した。
【方法】2018年および2020年の6月1日から7月31日の期間に、独立行政法人国立病院機構 埼玉病院にて外来受診した成人患者を調査対象とした。高血圧症への薬物治療を実施中の患者を抽出し、二次性高血圧症患者を除外後、脂質・耐糖能異常に対する薬物治療の有無により、MRF群または高血圧症治療群(HT群)とし、患者背景・外来診療時血圧・処方情報を調査し、2018年と2020年との比較検討を行った。調査は各施設の倫理審査承認後に行った。
【結果および考察】除外基準患者を除くと調査対象患者は、2018年はHT群529名、MRF群677名となり、2020年はHT群543名、MRF群733名であった。降圧達成率はHT群が69.4%から51.9%へと有意に低下し(P<0.001)、MRF群は45.6%から49.4%と上昇して改善傾向が認められた。外来診察時血圧はHT群が132.4±21.3/75.7±13.3mmHgから130.7±23.1/74.1±16.2mmHg、MRF群が131.0±20.0/74.2±13.6mmHgから129.4±20.3/71.2±14.0mmHgとなり、SBPは減少傾向がみられ、DBPは有意に低下した(HT群P=0.012、MRF群P<0.001)。外来診察時血圧が改善傾向にあるのは、Ca拮抗薬、ARB、利尿薬の使用が増加したことによるものと考えられるが、HT群の降圧達成度が低下している理由は、ガイドラインの改正に伴い目標値が厳しくなっていることによるものであり、実臨床における降圧治療の改善がガイドラインの求める変更に追いついていないことを示している。両群共に降圧達成率がおよそ50%であることから更なる積極的な治療が必要であり、治療上の改善の余地が残されていることが明らかとなった。