【目的】治験薬の作用機序や製剤特性の多様化・複雑化に伴い、非盲検薬剤師が必要となる場合や、製剤的な側面から調剤・調製方法が煩雑になる場合も多く、治験における薬剤師の重要性が高まっている。こうした複雑な治験に関与する薬剤師に対し、Risk based Approachに基づく適切なトレーニングを行うことは、治験の質向上という観点からも重要である。しかしながら、求められるトレーニング内容や形式は試験ごとに異なるため、Quality Management System(QMS)の観点からトレーニングの現状について調査を行った。【方法】2018~2021年度に九州大学病院が契約を行った企業治験のうち、当院で治験開始前に中止となった試験を除く174試験を対象に調査を実施した。その中で、2022年6月までに治験依頼者が提示を求めたトレーニングについて、トレーニング内容及び件数、対象者、契約年度、治験デザイン、非盲検薬剤師の有無に関する評価を行った。【結果・考察】薬剤師に対して治験開始時の初回トレーニングを求めた治験は127試験であり、そのうちの74.0%(94試験)が国際共同試験であった。また、契約年度毎にみると初回トレーニングを求めたものは、2018年度の60.9%から2021年度の77.8%へと経年的に増加した。一方、治験情報の改訂に伴うトレーニングを求めた試験は75試験(336件)であり、その内訳は、治験薬管理手順書関連が31.3%(105件)、プロトコール関連が28.6%(96件)、治験薬概要書関連が26.5%(89件)、IRT関連5.4%(18件)、盲検化手順関連が2.4%(8件)などであった。なお、このうち3割の試験において、軽微な変更のトレーニングを求めた事例や、試験途中でトレーニング対象者や内容を変更した事例、事実と異なる記録の作成や詳細に記載方法を指定した記録を求めた事例が見られた。また、非盲検薬剤師が必要な試験(23試験)のうち65.2%(15試験)が治験情報の改訂に伴うトレーニングを求めたが、非盲検薬剤師が不要な試験(151試験)では39.7%(60試験)と、リスクに応じた対策に違いが見られた。【結論】ICH-E6(R2)の改訂に伴い治験の品質管理にQMSの必要性が明記され、Risk based Approachに基づいたトレーニングが求められている。しかし、トレーニングの記録作成を重視するあまり、治験の質向上という本質が欠如した内容も散見された。QMSの概念に基づくトレーニングのあり方を規制当局、依頼者、実施施設が共に検討していく必要があると考える。