【目的】広島大学病院(以下、当院)では、治験の研究費用は研究経費ポイント算出表(以下、ポイント表)に基づき算出している。ポイント表の基本となるデータに「治験薬の投与期間」(以下、投与期間)がある。抗がん剤治験のように「病勢進行(以下、PD)まで投与する」といった場合は具体的な期間の設定がなく、別試験で求められたPFS(Progression Free Survival、無増悪生存期間)の中央値(以下、mPFS)が一般的に使用される。この場合、治験費用が一括で支払われていた時代は、被験者毎に投与期間は長くなることも短くなることもあり、差し引き「0」という考え方も可能だったが、マイルストーン方式が導入されている施設(当院でも2015年から実施中*)は、投与期間が短くなった場合はその時点までの費用請求となる上、投与期間がmPFSを超えた場合はその支払いの設定がなく、適正な費用請求が出来ていない。投与期間が「PDまで投与する」治験の当院での投与期間設定値の現状と対応について報告する。
*参考文献 「マイルストーン方式による治験費用の支払いの実施と検証」 医療薬学46(4)196-204(2020)
【方法】6カ月間に、当院に依頼のあった抗がん剤企業治験を対象にした。治験件数と治験実施計画書に記載された投与期間の内容、ポイント表の数、投与期間の依頼者希望および最終設定値、設定値を超えて投与された場合の対応について調査した。
【結果】期間中の抗がん剤治験は12件で、作成したポイント表は17種類だった。このうち、「PDまで投与する」治験は7件で、作成したポイント表は10種類だった。最終設定値をmPFSとしたポイント表は8種類で、投与期間設定値を超えて投与した場合の対応は、最初に依頼者からの提示はなかったが、当院から問題提起し7種類について対応可となった。他の2種類のポイント表は、依頼者希望はmPFSだったが、根拠資料に示されていたPFSの実測値の最長投与期間を設定値とすることを提案し、依頼者に受け入れられた。8種類のポイント表のうちの1種類は、mPFSの95%信頼性区間の最長投与期間を提案したが、受け入れられなかった。
【考察・結論】「PDまで投与する」治験では、ポイント表の投与期間はできるだけ長い期間を設定し、マイルストーン方式で支払い、設定値を超えて投与した場合の差額を請求することで適正な費用に近づくと考えられた。設定値の選択、差額請求の方法については、これからの課題である。