【目的】ICH E6(R2)により治験依頼者及び自ら治験を実施する者(以下スポンサー)に品質マネジメントが求められるようになり、近年では医療機関における治験手順の文書化をはじめとするプロセスアプローチの取組みが広がりつつある。しかし文書作成に注力するあまり本質が見失われている可能性が伺えることから、治験におけるプロセスアプローチの目指すべき方向性及び具体的な問題点並びに改善点について検討を行い提案する。【方法】2022年5月16日-31日に実施した治験におけるプロセスアプローチに関するアンケート調査の結果より具体的な課題を抽出し、QMSの考え方に基づき改善方法を検討する。【結果・考察】医療機関 CRC等とスポンサー CRA等の計740名から回答を得た。アンケート調査の結果、逸脱発生時にプロセス確認ツール等を用いて根本原因を「確認できている」と回答したCRAが58%であったのに対し、医療機関において治験中に手順の見直し改善が「出来ている」と回答したCRCは32%であった。この差からは、問題発生時のプロセス確認や根本原因分析がスポンサーで完結しており医療機関にフィードバックされていない、すなわちプロセス確認がその改善に活用されていない可能性が考えられた。また逸脱等に対するプロセス改善に向けたコミュニケーションが「出来ている」との回答はCRAの78%に対しCRCでは51%であり、CRAは伝えたつもりでも医療機関には十分に伝わっていないというミスコミュニケーションが示唆された。【結論】QMSは一貫した品質を保つための仕組みであり、継続的改善が欠かせない。プロセス構築・確認の文書は単なる記録ではなく、適切な業務の実施と継続的改善に向けたコミュニケーションツールでもあり、適切に活用することが重要である。また改善には双方向のコミュニケーションが不可欠であり、スポンサーによる評価結果は医療機関にフィードバックされて初めて効果を発する。そのためプロセスアプローチによるモニタリングでは、インタビューやフィードバックといったコミュニケーションに重点を置くべきと考える。QMSを考えるうえでは、医療機関におけるデータ取得プロセスの構築のみならず、スポンサーによるプロセスの監視活動も重要である。監視活動もまた一つのプロセスと考えられ、治験開始時には両方のプロセスについて十分検討し、適切に運用し、医療機関とスポンサーとが協働して改善に取り組むことが重要と考える。