【目的】わが国では人口高齢化に伴い心房細動の有病者数が増加している。重篤な合併症として塞栓症が挙げられ、その予防目的で直接経口抗凝固薬(DOAC)が頻用されている。DOACは従来のワルファリンと比較して頭蓋内出血などが少ないことが知られているが、消化管出血については同程度かむしろ増加することが知られている。DOAC服用中の出血イベントに影響する因子の一つとして併用薬が挙げられているが、わが国の実臨床における状況については情報が少なく明らかになっていない。今回我々はDOACによる抗凝固療法中の非弁膜性心房細動患者を対象とし、併用薬が実臨床でどのように出血や塞栓症の発症と関連しているかについて調査した。【方法】2011年から2018年までに非弁膜症性心房細動に対してDOACが処方されていた1010例を対象に、処方開始から2018年12月までの経過を調査し、全出血性合併症、消化管出血、重大心脳血管イベントの有無を評価した。背景因子として、処方開始時の年齢、性別、体重、併存疾患、同時服用薬剤数、併用薬剤を併せて調査し、その影響を傾向スコア逆数重み法によって背景因子を調節した上で一般化線形モデルを用いて検討した。【結果】観察期間中に全出血を107例(4.7%/年)、消化管出血を64例(2.8%/年)、重大心脳血管イベントを45例(2.0%/年)に認めた。10剤以上の多剤同時服用は消化管出血の有意なリスクであった(ハザード比2.046、p=0.010)。全出血について出血のリスクを有意に増加させている薬剤はなく、シロスタゾールとプロトンポンプ阻害薬が有意な抑制因子であった。消化管出血についてはNSAIDsが有意なリスク因子として挙げられた。【結論】DOAC投与中、消化管出血の有意リスクとしてNSAIDsが挙げられ、その他の薬剤のリスクはNSAIDsより小さいことが推測された。