【目的】Warfarin(WF)には5-fluorouracil(5-FU)との併用時に抗凝固マーカーであるプロトロンビン時間国際標準比 (PT-INR)が上昇する薬物相互作用(DDI)が知られるが、5-FUはWFを代謝するCYP2C9およびCYP3A4を直接阻害しない事が報告されている。我々はこれまでに、ヒト肝細胞株であるHepaRG細胞において5-FU暴露によりCYPs発現調節因子であるNR1|2およびCYP3A4 mRNAの発現が低下する1こと、臨床データを用いた検討からWFおよび注射用5-FU投与患者においてPT-INR/WF dose比が有意に上昇する2ことを報告し、5-FUによるWF代謝抑制によるDDIが存在する可能性を報告してきた。これらの結果を踏まえ、本研究ではWF以外の薬剤併用時の5-FUによるDDIを検討することを目的とし、WFに加えてCYP2C9及びCYP3A4基質である降圧薬併用時の血圧変動を指標とした検討を行った。
【方法】琉球大学病院において2009年4月から2019年12月の間に注射用5-FU投与を受けた患者を対象とした後方視的研究を行った。DDIの指標として、WF投与量,PT-INR, PT-INR/WF dose比および収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)を用いた。本研究は琉球大学人を対象とする医学系研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号: 1491)。
【結果】5-FU、WFおよびamlodipine(CYP3A4基質)、candesartan、valsartan(CYP2C9基質)を併用した患者5名を解析対象とした。5-FU投与期間中、WF投与量に有意な変化は無く、PT-INR値はベースライン値から有意な上昇を認めた。PT-INR/WF dose比には上昇傾向が認められた。DBPでは5-FU投与期間中にベースライン値からの低下傾向が示された。
【考察・結論】PT-INR値の有意な上昇に加えて、DBPの低下傾向が認められたことから、5-FUによるCYP抑制作用を介したWFおよび降圧薬血中濃度上昇による抗凝固作用・降圧作用の増強が引き起こされた可能性が考えられた。
1) Shiohira H, et al. Biomed Res 42:121-127.
2) Tayag JCS, et al. Biol Pharm Bull. in press.