【目的】トロンボモジュリンは、血管内皮細胞表面に発現する糖タンパク質であり、トロンビンと結合することによって血液凝固を制御する。2008年に汎発性血管内血液凝固症(DIC)治療薬として日本で承認されたトロンボモデュリン アルファ(TMα)はトロンボモジュリンの細胞外領域を可溶化させた薬剤であり、トロンビンの生成を阻害することでDICに対して治療効果を発揮する。トロンビン生成阻害作用は濃度依存的でありDICに対する有効血漿中TMα濃度は300~900 ng/mL以上とされている。血漿中濃度が低いと期待する効果が得られないとの報告もあるが、過量に投与すると出血性副作用が生じる可能性が懸念される。そこで本研究ではTMαの臨床試験のデータから血漿中TMα濃度と臨床効果、出血に関する副作用について、トロンビン生成阻害率とトロンビン直接阻害によるトロンビン凝固時間(TCT)延長率を用いて理論的に評価することを目的とする。
【方法】医薬品インタビューフォーム、申請資料概要などから血漿中TMα濃度とトロンビン生成阻害率、TCT延長率のデータを収集した。また、第II相、III相臨床試験における投与量と臨床効果(全般改善度)と出血性副作用(重篤な副作用発現率)のデータを収集した。血漿中TMα濃度とトロンビン生成阻害率、血漿中TMαおよびヘパリン濃度とTCT延長率について、モデルを作成して解析した。得られた関係式を用いて、血漿中濃度と臨床効果、出血性副作用との関係を評価した。
【結果・考察】モデル解析の結果より得られた血漿中TMα濃度とトロンビン生成阻害率、TCT延長率との関係は実測値とよく対応した。また、得られた関係式から算出したトロンビン生成阻害率とDICの全般改善度、TCT延長率と重篤な副作用発現率は有意な関係を示した。DICに有効とされている血漿中濃度域におけるDICの全般改善度は53~66%と算出され、血漿中濃度を上げることでさらに改善度が向上できる可能性が示唆された。一方、副作用発現に関しては、DIC治療に用いられるヘパリンを投与した際のTCT延長率と比較すると低く、TMαの安全域はヘパリンより広いことが示唆された。
【結論】TMαは従来から使用されているヘパリンに比べて、治療濃度域が広いことが示された。さらなる臨床研究が必要ではあるが、安全性を保ちながら有効性をさらに向上できる可能性も示唆された。