【目的】FLT3 (FMS-like tyrosine kinase 3)阻害作用を有するギルテリチニブは、2018年9月に「再発又は難治性のFLT3遺伝子変異陽性の急性骨髄性白血病」を効能・効果として製造販売承認され、現在臨床で広く使用されている。急性骨髄性白血病では、免疫機能が低下しているため感染予防を目的として抗菌薬、抗真菌薬等と併用されることが多い。また、ギルテリチニブは主にCYP3A4で代謝されるためCYP3A4阻害作用を持つアゾール系抗真菌薬併用時には、血中濃度に変動を認める可能性が考えられる。そこで本研究では、ギルテリチニブの血中濃度測定法を確立するとともに、抗真菌薬によるギルテリチニブの血中濃度に及ぼす影響について検討した。
【方法】LC-MS/MS(LCMS-8050, Shimadzu)を用いて、ギルテリチニブの血液中濃度の測定法を確立し、FDAのガイドラインを遵守して分析バリデーションを行った。次に2019年1月~2021年6月までに九州大学病院でギルテリチニブによる治療を受けた患者3例(11検体)の血液検体を用いてギルテリチニブの血中トラフ濃度を測定した。本研究は、九州大学病院臨床研究倫理委員会による承認を得て実施した。
【結果・考察】分析バリデーションの結果、選択性、日内・日差精度、真度、回収率、マトリックス効果および安定性はFDAの基準範囲内であった。また、ギルテリチニブの用量は20-120 mg/dayで、血中トラフ濃度は37.8-353.2 ng/mLで、血中トラフ濃度と投与量の関係は正の相関関係を認めた。一方で、アゾール系抗真菌薬の変更により血中トラフ濃度が約2倍に増加する症例を認めた。以上の結果から、FLT3遺伝子変異陽性の急性骨髄性白血病患者におけるギルテリチニブの血中トラフ濃度は、併用する抗真菌薬の種類によって影響を受けることが示唆された。
【結論】本研究では、LC-MS/MSを用いたギルテリチニブの血中濃度測定法を確立し、血中トラフ濃度が併用する抗真菌薬によって変動することを明らかにした。