【目的】タクロリムス(TAC)は、多くの自己免疫疾患治療に免疫抑制剤として広く使用されており、優れた治療効果を示す。しかし、有効血中濃度域が狭い上に、併用薬や遺伝子多型などの影響を受けるため、TACを安全かつ有効に使用するためには、定期的な血中濃度モニタリングによる厳密な管理を必要とする。
TACの投与量調整において、臓器移植分野ではCYP3A5遺伝子多型解析が有用であることが知られている。一方、膠原病の外来診療においては、TAC投与量調整を最適化にCYP3A5遺伝子多型解析を用いることの有用性は明確ではない。実際に外来患者では、血中濃度の急激な上昇による副作用リスクを回避するために、少量から慎重に投与を行う事が一般的であるが、これにより治療の遅れが生じている。また、慎重な増量を行い、最終的に本邦の保険適用の最大用量を投与しても、有効と考えられる血中濃度に到達しないため、TAC投与を断念する患者も散見される。そこで我々は、CYP3A5遺伝子多型とTACの血中濃度との関連を検討し、速やかに適正な血中濃度へ到達させる投与量や方法について検討した。
【方法】2014年~2021年までに神鋼記念病院(以下、当院)膠原病リウマチ科外来でTAC導入した患者53名を対象とした。TAC導入から定期的な血中濃度測定と、CYP3A5 6968A>Gの遺伝子多型解析を行った。そして、遺伝子多型とTAC投与量、TAC血中濃度を用いて検討した。
【結果】CYP3A5遺伝子多型、TAC投与量及び血中濃度を用いた多変量解析を行い、遺伝子多型からTAC血中濃度およびTAC投与量の予測モデルを構築した。本予測モデルの推定予測精度は、感度87.1%、特異度63.6%、AUC 0.80であった。
【結論】本研究により、CYP3A5遺伝子多型解析により、投与量から到達できる血中濃度の予測が可能となった。これにより、TAC導入前にCYP3A5遺伝子多型を確認することで、導入時から用量最適化に必要なTAC投与量の推測が可能となる。また、遺伝子型から本邦の医療制度で使用可能なTAC量では、有効血中濃度に至らないと予測出来れば、不必要なTACによる治療を避けることが可能となる。本予測モデルは、膠原病外来患者に速やかに安全かつ適切なTAC導入を行うために有用である。