【目的】経口第Xa因子(FXa)阻害薬である、アピキサバン(Api)、リバーロキサバン(Riv)、及びエドキサバン(Edo)は、いずれもCYP3A及びP糖蛋白質の基質である。これらの蛋白質はいずれも核内受容体であるpregnane X receptor (PXR)によって発現が制御され、また、cytochrome P450 (CYP)を介する薬物代謝には電子伝達系補酵素であるcytochrome P450 oxidoreductase (POR)が必要である。PXR及びPORにはこれらの活性に影響を及ぼす遺伝子多型が存在するが、FXa阻害薬の薬物動態への影響については検討されていない。本研究では、各FXa阻害薬の投与量で補正した定常状態におけるトラフ血漿中濃度(CApi, CRiv及びCEdo/D)に及ぼすPXRNR1I2)及びPOR遺伝子多型の影響について検討した。
【方法】各FXa阻害薬服用後7日以上が経過した心房細動入院患者を対象とした。血漿中薬物濃度はUPLC-MSMS法を用いて測定した。NR1I2 8055C>T, 11193C>T及び POR*28の遺伝子多型はリアルタイムPCR法により解析した。また、NR1I2の遺伝子多型の組み合わせに基づきPXR*1Bハプロタイプを決定した。各FXa阻害薬のC/Dを目的変数として、これらに影響を及ぼす独立因子を特定した。各C/Dに及ぼす寄与率は、partial R2で示した(倫理委員会承認番号:2018-011-2)。
【結果】Api、RivまたはEdo服用対象患者数は、104名、102名及び147名であった。PXR*1B/*1BはCApi/Dを上昇及びPOR*28アレル保有は低下させる独立因子であった(partial R2 = 0.029及び0.043、両P<0.05)。POR*28/*28はCRiv/Dを低下させる独立因子であった(partial R2 = 0.038、P<0.05)。一方、PXR*1B及びPOR*28遺伝子多型はCEdo/Dに影響を及ぼさなかった。また、クレアチニンクリアランスは、CApi、CRiv及びCEdo/Dの全てに影響を及ぼす独立因子であった(partial R2 = 0.168、0.108及び0.260、全P <0.05)。
【考察】PXR及びPORはCYP3AやCYP2Cの活性に影響を及ぼし、総クリアランスに占めるこれらのCYPの割合はApi = Riv(30%程度)>Edo(5%未満)である。また、尿中に排泄される未変化体の割合はRivが最も高い。本研究結果におけるPXR*1B及びPOR*28のCApi, CRiv及びCEdo/Dへの寄与率は、各FXa阻害薬の体内動態特性を反映したものと考えられる。