【目的】糖尿病は薬物代謝酵素シトクロムP450 3A4/5(CYP3A4/5)活性を低下させると報告されているが、タクロリムス徐放製剤の体内動態に与える影響については明らかにされていない。我々はHbA1cがタクロリムスの薬物動態に与える影響について検討した。
【方法】2015年1月から2020年6月の間に三重大学医学部附属病院にてタクロリムス徐放製剤の内服を開始した成人の生体腎移植患者を対象に後ろ向き観察研究を行った。主要評価項目は、タクロリムス投与開始から7日後、6か月後、12か月後のトラフ血中濃度(ng/mL)/投与量(mg/kg)(C/D比)とした。C/D比に影響する説明変数を重回帰分析にて検討した。さらに、主要アウトカムと各時点のHbA1cについて線形回帰分析を実施した。
【結果・考察】対象42名のうちCYP3A5 expressor (*1/*1*1/*3) 17名、non-expressor (*3/*3) 25名であった(HbA1c: 5.7±0.8%)。重回帰分析にて、7日後のC/D比はCYP3A5 non-expressorで高い傾向にあった(r=0.31, p=0.058)。6か月後のC/D比は男性とCYP3A5 non-expressor(r=0.59, p<0.001)、12か月後のC/D比はHbA1c と有意に相関し、CYP3A5 non-expressor(r=0.62, p<0.001)で有意に高値であった。CYP3A5 non-expressor における6か月後(r=0.43, p=0.049)ならびに12か月後(r=0.63, p=0.004)のC/D比とHbA1cの間に正の相関関係を認めた。また、6か月から12か月のC/D比とHbA1cの個体内変動にも有意な正の相関関係を認めた(r=0.41, p=0.036)。 本研究結果より、HbA1cの推移が6か月後のタクロリムス徐放製剤の薬物動態の変動因子であることを見出した。特にCYP3A5 non-expressor ではHbA1cが6か月以降のC/D比に与える影響が顕著であった。一方、7日後のC/D比については手術による消化管運動、肝血流量、薬物代謝酵素活性などの変化が影響していると考えられた。
【結論】生体腎移植後のHbA1cコントロールは6か月後のタクロリムス徐放製剤の体内動態に寄与することが示唆された。