【目的】片頭痛は,中等度から重度の頭痛が繰り返し起こる慢性の神経疾患である.患者の日常生活や社会生活に大きな負荷を与えることから,急性期治療薬のみで不十分の場合には,発作の発症を抑制する予防療法が推奨される.これまでに,Calcitonin gene-related peptide(CGRP)は片頭痛の病態に深く関与することが明らかになっており,片頭痛の治療標的として注目を集めている.予防治療薬としても,2018年にerenumabが承認されて以降,現在までに4種のCGRP関連抗体が米国で承認されている.しかし,これらの薬剤を直接比較した無作為化比較試験は報告されておらず,その優劣や特性の違いに関する情報は不足している.Model-based meta-analysis(MBMA)は,文献から得られる要約データを,母集団解析の理論を用いてモデル化する手法である.個別データが得られていない場合でも,薬効の間接的比較,影響因子の探索・評価が可能といった特徴を有している.本研究では,MBMAによりCGRP関連抗体の薬効について定量的な比較を行うことで,同薬物における適正使用に有用な情報を提供することを目的とした.
【方法】片頭痛の予防治療薬として米国で承認されている4種のCGRP関連抗体製剤(erenumab,fremanezumab,galcanezumab,eptinezumab)を解析対象とした.複数のデータベース(PubMed,Cochrane Library,ClinicalTrials.gov)を用いて文献の探索を行い,有効性の指標として月間片頭痛日数(MMD)を報告している無作為化比較試験を系統的に調査した.選択された文献より,MMDおよび患者背景などの情報を抽出してモデル化を行った.解析にはNONMEM 7.4.3(FOCE-INTER法)を使用した.
【結果・考察】文献探索の結果,24試験63群が解析に含まれた.MMDの経時推移はexponentialモデルを用いて良好に表現された.また,baseline時の片頭痛日数がMMDの経時推移に影響する因子として検出され,CGRP抗体製剤間の有効性の比較においてbaseline時の片頭痛日数を考慮する必要があることが示唆された.構築したモデルに基づき,MMD変化量をシミュレーションした結果,eptinezumabで高い有効性を示すことが示唆された.
【結論】片頭痛患者に対してCGRP関連抗体を投与した際のMMDの経時推移を記述するモデルを構築した.また,baseline時のMMDが薬効に与える影響を定量的に示した.