【目的】
糖尿病では、毛細血管の障害や接着面の損傷による組織の形態的異常が引き金となり、血管障害性合併症が誘発される。近年、糖尿病が肝炎のリスク因子であると指摘されており、糖尿病による肝臓内シグナル経路の異常に関する研究が多く行われている。しかし、肝臓の形態的変化の観点から検証した報告はない。本研究では肝臓の形態的異常が肝炎の発症となるか明かにするため、糖尿病モデルマウスを用いた検証を行った。
【方法】
野生型マウスおよびob/obマウスを12時間毎の明暗周期条件下、自由摂食摂水下で2週間飼育した。マウスにエバンスブルーを投与し、2時間後に肝臓を採取してエバンスブルーの浸潤度を評価した。また、異なる個体から肝臓を採取し、細胞接着関連因子のmRNA発現量を測定した。さらに、ヒト肝がん細胞(HepG2細胞)を、異なるグルコース濃度 (5, 10, または 25 mM) を含む培養液を用いて培養し、細胞接着関連因子のmRNA発現量を測定した。
【結果・考察】
エバンスブルーの投与後、ob/obマウスの肝臓では、野生型マウスと比較して肝実質細胞へのエバンスブルーの浸潤が亢進していた。エバンスブルーの浸潤度が高い原因として、細胞接着関連因子の発現量の変化を推察し、マウスの肝臓におけるその発現量を評価した。その結果、タイトジャンクションの構成に関わる遺伝子の発現量が、ob/obマウスでは野生型マウスよりも低下していることが明らかとなった。その中でも、Tjp1, Claudin1, およびClaudin3 mRNAの発現量が有意に低下していた。Tjp1 mRNAの発現量がob/obマウスで低下した原因を探索するために、そのプロモーター領域から想定される転写因子の発現量を解析した結果、heat shock transcription factor (HSF)1および 2の発現量が低下していた。また、HepG2細胞を高グルコース濃度含有の培養液で培養したところ、通常濃度の培地と比較してTjp1 mRNAの発現量が低下した。これらのことから、高血糖状態ではタイトジャンクション関連遺伝子の発現量が低下し、細胞間隙が拡張するものと想定される。
【結語】
本研究によって、糖尿病では肝臓の実質細胞間隙の結合が緩くなることが示唆された。細胞間隙の緩みは、栄養素の過剰浸潤や毒素の沈着を誘発する。今後さらなる検討を実施して、糖尿病が肝炎を誘発する機序を明らかにしていく。