【目的】腎臓は様々な臓器と連関しているため、慢性腎臓病 (CKD)が生体に及ぼす影響は多岐に渡る。その一つとして、腸内細菌が乱れた状態 (ディスバイオシス)が引き起こされることが近年報告されている。腸内細菌はインドキシル硫酸 (IS)等の一部の尿毒症物質の産生源であり、CKDの病態悪化への寄与が疑われているが、具体的な機構は十分に解析されていない。一方で我々は、CKDマウスを用いた解析により、CKD時に肝臓にてビタミンA (VA)の代謝不全が生じることを報告している1,2。VAは腸管免疫を司る重要な分子であるため、CKD時のディスバイオシスへの関与が疑われる。そこで本研究ではVAに着目し、腸内細菌の変容ならびに腸内細菌由来物質の増加機構について解析を行った。
【方法】ICRマウスの腎臓を5/6摘出し、その後8週間飼育することでCKDマウス (5/6 Nephrectomy: 5/6Nx)を作製した。また、対照としてSham群を作製し、各種解析を行った。血中の因子測定はLC-MS/MSを用い、タンパク質発現量はウェスタンブロット法を用いて測定した。
【結果・考察】まずCKD患者の血清を解析した結果、血中VA濃度と腎障害に相関が認められた。そこでVAと尿毒症物質との関連を明らかにするため、5/6NxマウスにVA不含給餌を行った結果、SCrやBUNは減少しなかったにもかかわらず、IS等の腸内細菌産生尿毒症物質のみ血中濃度が低下することを発見した。この原因を明らかにするため、5/6Nxマウスにおける腸管免疫に着目し解析を行ったところ、VA不含給餌は5/6Nxマウスの腸管内で亢進するIgA分泌を抑制し、菌叢を再変容させることが明らかになった。このことは、5/6NxマウスではVAを介して腸管免疫機能が亢進していることを示唆している。そこで腸管の免疫細胞を対象とした詳細な解析を行った結果、5/6Nxマウスではパイエル板における樹状細胞のレチノイン酸合成能が亢進し、B細胞からIgA産生細胞への分化が促進されることが明らかになった。さらに、阻害剤を用いたこれら経路の抑制は、5/6Nxマウス腸管のIgA量およびIS等の血中濃度を低下させた。
【結論】以上の結果より、VAおよび腸管の免疫細胞を介した新たな腎-腸連関機構を解明した。本研究のさらなる解析が、新規治療薬の開発に繋がることが期待される。
【参考文献】
1. Yoshida Y, Matsunaga M, Ohdo S, et al., Nat. Commun. 2021.
2. Hamamura K, Matsunaga M, Ohdo S, et al., J. Bio. Chem. 2016.