【目的】
便秘の原因は、水分や食事摂取量の減少、腸管運動の低下など、様々な要因があげられる。便秘などの排便障害は高齢になると増加し、特に高齢者に多いのは弛緩性便秘で、この原因として主に自律神経機能が関与している1-2。消化管の収縮には副交感神経が有意に関与し、弛緩には交感神経が支配的である。腸管神経における副交感神経を介した小腸の収縮にはM2およびM3ムスカリン受容体が関与している3。一方、交感神経では平滑筋に発現するアドレナリン(Ad)受容体は、β2-Ad受容体が一般的に知られているが、腸管にはβ3-Ad受容体の発現も確認されている4。しかし、腸管におけるβ3-Adの機能についてはあまりよくわかっていない。過活動膀胱治療薬のミラベグロンは、β3-Ad受容体選択的作用薬であるが、副作用に便秘があり、腸管に対する影響が考えられる。本研究では腸管におけるβ3の作用を確認し、さらにムスカリン受容体、Ad受容体への作用が加齢によって影響するか、それぞれの自律神経作用薬に対する反応を明らかにすることを目的とした。
【方法】
若齢(4月齢)と高齢(18月齢)ウイスターラットのオスを吸入麻酔下で安楽死させ、腸管を摘出した。マグヌス装置を用いて、アセチルコリン(Ach)投与後の収縮能を評価した。また、腸の弛緩作用は、BaCl2により収縮負荷をかけてからイソプロテレノール(ISO)、ミラベグロンを投与し評価した。
【結果・考察】
Achの収縮は、高齢ラットと比較して若齢ラットでは強く反応した。ミラベグロンとISOは、BaCl2で収縮した腸管を弛緩させたが、ミラベグロンよりもISOの方が弛緩作用は強かった。したがって、β3受容体も腸管の弛緩に一部関与していることが示唆された。また、ミラベグロンおよびISOの弛緩は、若齢ラットでは高齢ラットに比較して強く反応した。これらの結果から、高齢ラットは、自律神経作用薬による腸管の収縮と弛緩作用が若齢ラットより弱く、感受性が低いことが示唆された。
【結論】β3-Ad選択的作動薬はラット腸管を弛緩させた。また、高齢ラットは若齢ラットと比較して、腸管における自律神経受容体への感受性が低いことが示唆された。
【参考文献】
1. 須藤紀子, 2012, 日老医誌, 49: 582-585
2. 丹村敏則, 2014, 日農村医会誌, 63: 624-633
3. Takeuchi T et al., 2007, Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol. 292: G154-64.
4. Chino D et al., 2018, J. smooth muscle res. 54: 13-27