【背景】チトクロームP450(以下CYP)は薬物の代謝を担う最も重要な酵素である。一般に、ホルモンを中心とした生体内で産生される基質を代謝するCYPに比べ、薬物などの生体外で産生される基質を代謝するCYPは生体防御を担うためか基質特異性が低いことが知られている。これらのCYPの基質特異性を理解することを目的とし、基質特異性が低いCYP3A4、基質特異性が高いCYP46A1について、分子動力学計算により活性中心へのゲート開閉の頻度、活性中心からゲートまでの容積の比較を行った。【方法】分子動力学計算はAMBER20を用い、Protein Date Bank上に登録されているワイルドタイプの構造からHeme基以外を削除し、欠測箇所をmodeller9.19により推定し、初期構造とした(PDB:ID 1W0F, 2Q9F)。周期境界条件下において1000 nsの計算を各条件で3回行った。ゲートの開閉はF-Gloop周辺において水素結合網を形成している部位に着目し、それらの距離が4Å以上になったときゲートが開いたとし、1000 ns間での開閉の頻度の比較を行った。活性中心からゲートまでの容積は、初期構造、水素結合網の距離が最短、最長の構造をCAVER 3.0を用い見積もった。【結果・考察】CYP3A4において、活性中心へアプローチするためのゲートの2つの残基間距離が最大12Åとなった。一方、CYP46A1ではゲートの残基間距離が最大10Åであった。ゲート開閉の頻度は1000 ns 中CYP3A4が平均17回、CYP46A1が平均19回とほとんど差がなかったが、CYP3A4ではゲートが開いている時間が最大で120 nsに対して、CYP46A1では最大40 nsであった。開閉時間を考えると、基質特異性の低いCYP3A4はより活性中心へ基質がアプローチしやすいことが示唆された。