高血圧治療ガイドライン2019によると、3種類以上の降圧薬を用いても血圧がコントロールできない治療抵抗性高血圧は10-15%にも達するとされる。高血圧症は脳心血管病の最大の危険因子であることから、目標血圧の達成は喫緊の課題である。近年の遺伝子解析技術の進歩により、網羅的疾患感受性遺伝子解析(GWAS)が可能となり、高血圧の分野でも2009年頃から本格的に開始された。その結果、現在までに1000を超える高血圧関連遺伝子座位が発見されている。しかし、高血圧関連遺伝子座位から責任遺伝子を同定し、モデル動物実験を通して血圧が上昇することを示した報告は少なく、十分な検証ができているとは言い難い。
 我々の研究グループは他大学とのGWASの共同研究により、高血圧感受性遺伝子としてLPIN1遺伝子、ATP2B1遺伝子を同定・報告してきた。LPIN1遺伝子ではその全身ノックアウトマウスであるfldマウスを用いた実験において、テイルカフ法およびラジオテレメトリー法を用いた血圧測定で、収縮期血圧と脈拍・心拍数が24時間持続して上昇し、日内変動が消失していることを明らかにした。さらにfldマウスでは尿中アドレナリンやノルアドレナリンの排泄量が増加しており、クロニジン(中枢性交感神経抑制薬)に対する降圧反応がその他の降圧薬に比べ増強されていた。以上より、LPIN1遺伝子のノックアウトマウスは高血圧を呈しそのメカニズムとして交感神経系の活性亢進の関与が推測された。我々はLPIN1遺伝子が血圧調節に重要な役割を果たし、本態性高血圧症の新たな標的遺伝子の一つとなり、高血圧の機序解明や創薬の可能性を示唆するものであると考えている。これまでの研究成果や遺伝子解析技術の今後の可能性について報告する。