高血圧症は、効果的な治療薬が多く満足な治療が実施できると考えられ、アンメット・メディカルニーズの低い生活習慣病とされる。しかし、成因は単純ではなく、交感神経・腎尿細管のナトリウム吸収・血管収縮・血圧調節ホルモンなど、様々な生理学的要因が関与していることから、多くの種類の高血圧治療薬が創出され、長期の定期的な服用を確実にするために、剤型改良が進められてきた。しかし、高血圧治療を受けている患者の至適血圧への管理率は50%に満たず、決して満足の行く治療実態にはなっていない。その理由として、クリニカルイナーシャなども唱えられているが、まだまだ高血圧の成因や治療ターゲットに未解明な部分が多くあり、より根本的かつ効果的な治療薬の開発が必要で、今もなお高血圧の基礎研究が進められている。日本では高血圧自然発症ラット(spontaneously hypertensive rat, SHR)が確立され、またレニン・アンジオテンシン系の研究などにおいて世界をリードする高血圧研究が進められてきた。マウスやラットなどの動物を用いたin vivo研究、臓器の細胞を用いたin vitro研究を実際の高血圧の臨床に役立つために特に秘策があるわけではなく、地道な検討が必要なのは言うまでもないが、実際にヒトでの効果に結び付けるために問題点や克服すべきことも多い。薬剤の濃度や動物種による感受性や代謝の問題など、基礎研究を通した薬物開発の問題点や、加齢による臓器変化を基礎研究で疑似的に映し出すための工夫など、高血圧の基礎研究を臨床に生かすための具体策について、本セッションで様々な角度から検討したいと考える。