わが国の高血圧有病者数は約4300万人であり、食塩過剰摂取や特に男性では肥満者の増加が多い。二次性高血圧は高血圧全体の約10%程度あり、原発性アルドステロン症(PA)、睡眠時無呼吸症候群は頻度が高い。PAは血中アルドステロン濃度が正常から高値で血漿レニン活性が低値を示し、自律的に過剰分泌されるアルドステロンによるミネラルコルチコイド受容体(MR)の活性化のため治療抵抗性の食塩感受性高血圧を呈する。PAは同程度の血圧値の本態性高血圧と比べて、心血管疾患の頻度が高いために早期の診断と治療が重要である。片側性病変は副腎摘出術により著明な改善を認めるが、両側性病変や手術の希望や適応がない症例はMR拮抗薬による薬物治療が第一選択となる。
PAのスクリーニング検査で陰性となる病態の中でも、病的なMR活性化による高血圧や臓器障害をきたす病態を「MR関連高血圧・臓器障害」という新規病態として提唱した(Am J Hypertens, 2012)。これらには、肥満、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)などの生活習慣病が含まれる。これらの病態はしばしば治療抵抗性高血圧を呈する例が多く、第一選択薬3剤で血圧コントロールが不十分な場合に第4剤目としてMR拮抗薬が推奨されている。
わが国における透析導入にいたる原疾患として最も多い糖尿病性腎症の治療では、血圧、血糖、脂質の各々について治療目標を達成する集約的治療が重要である。近年の臨床試験の結果より、レニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬およびSGLT2阻害薬治療が推奨されるが、残余リスクが問題である。糖尿病やCKDでは、MR発現レベルの上昇や核移行の亢進などによる直接的なMR活性化をきたす。さらに、RAS阻害薬治療に伴うアルドステロンブレイクスルー現象によりMR活性化をきたす。したがって、RAS阻害薬、SGLT2阻害薬に加えてMR拮抗薬の併用治療は残余リスクの軽減が期待される。SGLT2阻害薬と新規MR拮抗薬フィネレノンの併用は血清カリウム濃度の上昇を軽減することも示され、2型糖尿病合併CKDの新しい治療の3つの柱となることが期待される。本講演では高血圧治療におけるMR拮抗薬の立ち位置につき考えてみたい。