医薬品の開発には、実薬とプラセボとの間に統計学的な有意差を検出する必要がある。しかし近年の精神科領域の医薬品開発においては、プラセボ反応が増加傾向にあり、プラセボに対する実薬の優越性を示すことが難しいことも多く、決して臨床試験の成功割合が高いとは言えない状況である。一方で、日常診療におけるプラセボ反応は必ずしも否定的な意味を持つものではなく、むしろ治療への期待を含むものであり、この点を最大化しプラセボ反応を刺激する方策は有益であると言える。
本講演では、プラセボ反応とこれに寄与する要因を概説するとともに、プラセボ反応を制御しうる臨床試験の最適化の方策について検討したい。最近の臨床試験では、プラセボリードイン期間を導入して、事前に定義された程度の改善を示したプラセボ反応者を除外することがある。ただし、除外とするしきい値は、試験ごとに任意の値がとられていることが多い。そこで、統合失調症患者を対象とした二重盲検無作為化プラセボ対照試験の事後分析の報告をもとに、プラセボ反応者の人口統計学的・臨床的特徴を抽出するとともに、早期に潜在的なプラセボ反応者を予測する基準を検討して、理想的な精神科臨床研究の設計について考えたい。