精神科領域における治療薬開発の停滞が指摘されて久しい。グローバル企業が向精神薬の研究開発から次々と撤退している。その大きな要因は成功確率の低さにあり、とくに有効性の証明が困難で、膨大なコストのかかる開発後期での脱落率が高いことがその傾向に拍車をかけている。一方、既存の向精神薬は、一定の貢献度は認めるものの満足度は決して高くなく、アンメットニーズは依然として高い。
その難しさの要因を分析すると、精神疾患の根本的な病因・病態の解明ができておらず、病因に直接的に作用する治療法の開発が困難であること、病態が複雑なため客観的バイオマーカーが特定されておらず、不均一な患者を対象として臨床試験が行われてきたこと等が挙げられる。また、1施設当たりの症例数が少なく、結果的に評価者数が多くなるため、施設間・評価者間の症状評価のばらつきが大きくなる可能性が高くなること、主治医と評価者が同一であるため、評価時点における評価尺度のアンカーポイントの定義に一致しないことも指摘されている。さらに、前述の精神科領域の特性を理解した臨床試験支援専門職(CRC、モニター、DM、PM、生物統計家等)の育成や、ARO等の臨床試験支援機能の整備も十分とは言えない。
しかし、臨床試験や企業治験において、これらの問題を最小化できるよう、プロトコルデザインや被験者選択上の工夫や、臨床試験実施体制上の工夫を実践してきた。前者は、プロトコルデザインでのプラセボリードインの採用や、薬効評価に適した患者像を見極め選択基準・除外基準への反映、治験薬介入以外のプロトコル治療中の影響の排除などである。後者は、評価の質を一層担保する工夫で、評価者トレーニングの徹底や、施設/評価者の絞り込み・1施設当たりの症例集積性向上、中央評価システムの導入などである。また、病因・病態の解明や臨床試験の推進に向けた課題解決への取り組みとして、産官患学連携に基づく研究基盤となる「精神疾患レジストリ」の運営・管理、患者層別化技術の開発、バイオマーカーの探索、新規アウトカムメジャーの開発、既存治験・臨床研究データの統合・解析、ICTを活用した中央評価システムの構築、医療デジタルトランスフォーメーションによる新規医療開発等にも取り組んでいる。
本セッションでは、精神科領域の臨床試験や企業治験を推進するために、臨床試験支援の問題点とその対策について議論したい。