本講演では,小児肺動脈性高血圧症の特徴,治療,投与量設定の必要性について概説する.
肺高血圧(PH)は,第1群 肺動脈性肺高血圧(PAH),第2群 左心性心疾患に伴うPH,第3群 肺疾患,または低酸素血症に伴うPH,第4群 慢性血栓塞栓性PH,第5群 詳細不明な多因子のメカニズムに伴うPHに臨床分類される.小児肺動脈性肺高血圧(PAH)は特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH),遺伝性肺動脈性肺高血圧症(HPAH),および先天性心疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症(APAH-CHD)が代表的な疾患で第1群に分類される.その他,新生児領域の肺高血圧症である,新生児遅延性肺高血圧症や新生児慢性肺疾患に伴う肺高血圧は第1群のサブ・カテゴリーに分類され,複雑性心疾患,すなわち単心室循環を伴う肺高血圧は第5群に分類される.
2018 年2 月にNice で開催された6th World Symposium on Pulmonary Hypertension(WSPH)でPHの定義が,安静時の平均肺動脈圧(mPAP)「25 mmHg 以上」から「20 mmHg を超えるもの」へと変更された.また,単心室循環は,非拍動的な肺循環となっており,mPAPが20mmHg を下回る場合でも肺血管抵抗(PVR)が3 WU m2 を超えるか,平均肺動脈圧ー肺動脈楔入圧が6 mmHg を超える場合にはPHと定義される.
小児PAHの治療アルゴリズムは,急性肺血管反応性試験(AVT)で陽性だった場合はカルシウム拮抗薬を投与し,陰性だった場合は各リスク因子と重症度から治療方針を判断することとされている.予後は小児領域ではPAH 全体で5 年生存率が74%であり,IPAH およびHPAH で75%,APAHCHDでも71%と成人PAH に比して予後が良いと報告されている.
AVTで反応不良の症例は低および高リスクの2つに分ける.このリスク分類は,成人と異なる血行動態を示すことから,小児PAH 症例に対する基準が提唱されている.治療薬は成人と同様でProstacyclin系,PDE5阻害薬,endothelin拮抗薬の3系統の薬剤のうち,いずれかを選択し,重症な症例には2 剤もしくは3剤併用のcombination therapy を行う.支持療法としては酸素投与,利尿剤,抗凝固療法等が挙げられる.
小児PAH 患者において,多くの治療薬が,未だoff label useであり薬物動態に関するデータも少ないことから,用量設定においてもコンセンサスが得られたものは少ない.そこで,各肺血管拡張剤の血中濃度を測定し,母集団薬物動態解析(PPK)モデルおよびPDモデルを用いてPVRの予測を行うことにより,小児に最適な投与量設定を行うことが期待される.