薬の作用機序を理解することは薬理学を学ぶ上で必要不可欠であり、また、薬物治療を行う際の必須事項でもある。しかし、医学生が教科書に文章として記載されている薬の作用機序を視覚イメージとして捉えることは比較的困難に思われる。
 我々は、抗がん薬の作用機序の違いを視覚的に捉えることで各薬物の作用機序をより深く理解することを目的として、抗がん薬が細胞周期に与える影響について分析する実験を学生実習のテーマとして昨年より取り入れた。具体的には、作用機序の異なる殺細胞性薬をがん細胞に作用させて細胞周期をフローサイトメーターにより解析する実験を計画した。しかしながら、初回はコロナウイルスの影響により実習が実施できず、講義形式への変更を余儀なくされた。そこで我々は、実習内容についての動画を作成し、学生への視聴を試みた。動画ではDNA複製のメカニズム、DNAインターカレータを用いた細胞周期測定の方法、フローサイトメーターの原理などについて紹介したほか、フローサイトメーターが白血病の分類決定に応用されていることなど、実臨床との関連性についての説明も加えた。さらには、実験手技、手順も撮影し、実験を映像として確認できるようにした。
 当初はコロナウイルスの影響により実施できなかった実習の代替え案として、専門的な知識やソフトウェアがほとんど無い状況で動画作成に着手したが、完成した動画は今後の実習の際にも内容をより深く理解するために補助的に活用できると思われた。実験開始前に動画を視聴することでより効果的な実習が実施できることや、得られた実験データの考察や説明にも有効に利用できることが期待される。コロナウイルス収束後においてもこのような教材の作成・活用を継続することで、学習効果のさらなる向上につながると推測される。