東邦大学医学部の2年次学生は「模擬診療ロールプレイ」で疾患概念および臨床の現場における薬物治療の意義を理解し、「基礎薬理実験シミュレーション」によりロールプレイで取り上げた疾患に関わる薬物動態および代表的な薬理作用を観察し、その学修成果を発表する薬理学実習を行っている。以前は「基礎薬理実験シミュレーション」単独で行っていたが、その作業内容に対する動機付けと理解を喚起するのが難しく、学修効果が限定されていた。そこで、「基礎薬理実験シミュレーション」に対応する内容の「模擬診療ロールプレイ」を組み入れ、その課題を解決した。まず、「模擬診療ロールプレイ」では、学生は提示された症例について、医師や患者役などを演じながら、薬物治療について議論を進めていく。学生は臨床現場における薬物治療の重要性を認識するだけでなく、医師として患者へ薬物治療方針を適切に伝えるための知識・技能、そして説明を受ける側である患者の気持ちを理解する態度も修得できる。次に「基礎薬理実験シミュレーション」では、学生は「模擬診療ロールプレイ」で学修した症例の背景にある病態生理および薬物の作用機序について、視覚的かつ実践的に理解し、科学的根拠に基づく薬物治療を学修する。「模擬診療ロールプレイ」はZoom等を活用し、「基礎薬理実験シミュレーション」は学生個人がWebアプリを使用するかソフトをダウンロードすることで遠隔においても実施可能であり、いずれも対面・遠隔またはその両者で実施可能である。さらに、シミュレーションソフトの使用方法等を詳細に記載した実習書を用意することで、学生の自学自習への活用も促している。現在、以下の5つのテーマ、1.アミノグリコシド系抗菌薬のTDM(治療薬物モニタリング)、2.アナフィラキシーショック治療時に発生したアドレナリン反転、3.統合失調症患者に発生した薬剤性QT延長症候群、4.アトロピン処置による麻痺性イレウス、5.妊娠希望女性に対するてんかん治療の実習を実施している。本講演ではこの中からいくつかの実施例を紹介する。