臨床研究は基礎的な生命科学研究に発するシーズの現場への適用、あるいは臨床現場での重要な疑問、課題を解決するために行うもので、結果的に診療を良い方向に変えることをミッションとする。しかし一方でサイエンスとしては自立した純粋な生命科学とはいえず、サイエンスの実現には実務(オペレーション)に依存する部分が多く、また試験は患者で実施され、結果は将来の患者に適用されることを前提とすることを忘れてはならない。臨床研究は従ってCRCをはじめとしてオペレーションを担う多職種の連携が理想型とされるがそれは全ての研究機関で実現されるものではなく、過度の職種別のトレーニングプログラムはかえって先鋭化させ、本質を見失う可能性もある。日本臨床薬理学会では今回その研究で診療を変えようとする研究代表者(PI)と伴走しつつサイエンスとそれを支える実務、あくまで被験者、患者にとっての研究を実現する支援者としての臨床研究専門職を育成、認定する事業を開始した。いわゆるプロジェクトマネジャーの育成ではなく、研究計画作成から実施における実務を進め、質の高い研究計画にとって必要なサイエンス(臨床薬理学、疫学、研究倫理、規制科学)の知識と感覚、リテラシー、オペレーションのスキルを有する人材である。COVID-19に関する臨床試験実施数は日本では先進国中最下位であるばかりではなく、ブラジルやエジプトの後塵を拝するような状況である。また臨床研究法施行後、企業の資金によらない臨床試験の実施数は激減している。今後医師の働き方改革や大学の運営交付金の減額、いわゆる選択と集中、実質的な研究時間の減少、若手教員のポスト減少などあまりアカデミアにとって明るい材料はない。このような状況の中で少しでも臨床研究を推進し、診療を変え、患者の予後を良くすることの一助となるべく本事業を活用していきたい。