開発された治療薬の多くは成人患者を対象とした企業治験をへて承認されており、同じ疾患を持つ小児患者における効果と安全性を評価する企業治験が行われることはまだ少ない。成人で効果と安全性が認められた薬剤を小児で開発していくことの重要性はだれもが認識するところだが、相対的に患者数が少なく、成人とは違う用法用量さらには剤型を要することがあり、企業にもたらす利益も決して大きくない小児を対象とした薬事開発のハードルは高い。そのため、疾患適応はあるが小児における効果や安全性が治験では確認されていない薬剤を、小児科医の裁量で適応外使用をしている実情がある。FDAやEMAが新規薬剤の開発に当たり、小児を対象とした治験の検討を義務付けたことで、昨今、日本でも小児における国際共同治験が増えてきている。一方で、対象患者がすくない、費用対効果が小さい、再審査期間が迫っているといった理由から、企業が小児への適応拡大のための治験を見送るケースも多く、医師自らが治験を行う医師主導治験が求められることが少なくない。 低亜鉛血症の治療薬であるノベルジン錠は、乳幼児での服用は容易ではなく、小児においては年齢や体重を考慮した用量調節が望ましい。そこで、国立成育医療研究センター消化器科では、臨床研究センター、薬剤部の支援をうけ、製薬企業に小児用剤形の開発を働きかけ、酢酸亜鉛顆粒剤の提供を受け、小児低亜鉛血症を対象にとした酢酸亜鉛顆粒剤の効果と安全性を評価する第3相試験を、医師主導治験として計画し、実施した。2014年11月に初回のミーティングを設け、PMDAとの事前面談・対面助言を経て研究計画書を作成した。2016年7月に治験届を提出し、登録を開始した。2018年5月に治験実施を終了し、2019年3月に総括報告書を作成した。2020年1月に製薬企業が薬事承認申請を行い、2021年1月に製造販売承認に至った。本医師主導治験の実施に当たっては、臨床研究センターに治験調整事務局、データマネージメント、モニタリング、統計解析の支援を受けた。本講演では、開発を計画してから製造販売承認に至るまでに苦労した点(研究費獲得、PMDA相談対応、被験者の組み入れ)、どのように解決していったかを紹介したい。