日本における治験審査委員会(以下、IRB)は、1997年の「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成9年3月27日厚生省令第28号)」(以下、GCP)施行以降、そのあり方が検討され、改善されてきた。2008年のGCP改正で、医療機関ごとのIRB設置原則が廃止され、共同で設置したIRBや他のIRBへの審査依頼が可能となり、主に効率化の観点からその積極的な活用が期待された。
日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 臨床評価部会では、加盟会社に対して経年的に実施している治験の現状に関するアンケート調査において、共同IRBの利用についても調査してきた。過去十数年の推移を見ると、SMO主体の共同IRB利用率は増加傾向にあるのに対し、治験ネットワーク主体の共同IRB利用率は低いままであった。また、2012~2016年に設置したタスクフォース活動では、主に治験ネットワーク活用による症例集積性の向上と治験手続きの効率化を期待して、治験ネットワーク活性化に向けた活動を行った。医薬品開発における日本の国際競争力の維持のためにも、昨今の治験手続きの電磁化の浸透の中、IRBの集約化や治験手続きの一元化などによる、治験環境の改善に向けた更なる効率化が求められる。
一方、近年治験デザインが複雑化するとともに、遺伝子治療や再生医療、希少疾患といった専門性の高い治験が増加し、国際共同治験も益々増えてきている。また、疾患レジストリなどのリアルワールドデータを用いた治験やDecentralized Clinical Trialといった新たな治験手法も活用されてきている。このような多様な治験環境の変化に対応するためにも、IRBには適切な被験者保護、科学的な質、信頼性を審査できる、より高い質が求められてきている。効率化の観点からだけでなく、高い審査機能を有するIRBに集約を進め、治験の質を確保していく視点を持つ必要性が高まってきていると思われる。
本発表が、今後の医薬品開発の促進に向けた発展的な議論のきっかけになれば幸いである。