臨床研究の一つのテーマは「因果推論」であるが、これはある集団において暴露や治療介入の健康に対する影響を推測することである。こうした因果推論を行う際には、おそらく観察研究がその入り口にあたるのかもしれない。例えば、利尿薬は心不全治療において症状緩和、ならびに生活の質の改善に関して依然として中心的な役割を担っている。特にループ利尿薬は広く使用される薬剤でありながら、その使用方法に関しては明確な診療ガイドライン上の推奨は存在しない(体液量コントロールに必要最小限の量で使用すると書かれている程度である)。ループ利尿薬は短時間作用型と長時間作用型に大別されるが、過去に行われた比較的規模の大きい観察研究では長時間作用型の優位性が示唆されている。しかし、いかに規模の大きいものであろうとも、後ろ向き研究には常に交絡(バイアス)が存在し、治療と転帰の因果を証明することは難しい。一方でランダム化比較試験(randomized controlled trial [RCT])は厳格な組入基準から生じる結果の一般化可能性の低下も大きな問題となっており、近年はより実臨床に近い状況での仮説検証法(pragmatic trial)の実践に注力され、その一つの中心的アプローチとして疾患レジストリを基盤としたRCT(registry-based randomized clinical trial)が世界的にも注目を浴びている。本手法は循環器疾患患者の高齢化が著しい本邦において特に有用な仮説検証法と考えられる。また既存の研究ネットワークや電子データ入力システムを利用することで、より少ない労力・コスト、短期間での患者組み入れなどが実現可能である点も好ましい。当セッションでは、筆者が経験してきた多施設共同循環器疾患レジストリの構築と、それを基盤としたregistry-based randomized clinical trialを立案・実施までの経緯を共有する。