高齢化の進展や様々な分野でのグローバル化が進む中、医学・医療を取り巻く環境にも大きな変化が生じている。医療・医学の発展のためには、人を対象とする研究が欠かせないが、そのための研究実施の枠組みである倫理指針についても、近年、複数回の見直しと改正がなされてきている。
 令和3年(2021年)には、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」と「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」が統合され「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」が施行された。多施設共同研究の研究計画は、原則として一つの倫理審査委員会による一括した審査を行うことになったほか、インフォームド・コンセントにおいて電磁的手法を用いることが可能になるなど、医学研究の変化に対応した新しい内容が盛り込まれた。
 一方、医学に限らない社会全体の変化として、情報通信技術の発展やビッグデータの利用がますます進むという状況がある。それを踏まえて、個人情報保護の法制度も近年、大きく変わってきた。令和2年(2020年)には個人情報保護法が改正され、令和3年(2021年)5月には、個人情報を含む関係の法律が大きく改正され、それまでセクターごとに分かれていた3つの法律(個人情報保護法[個情報]、行政機関個人情報保護法[行個報]、独立行政法人等個人情報保護法[独個報])が統合され、さらには地方公共団体の個人情報保護制度についても、全国的に共通のルールを定めることになった。その中で、学術研究に関しては、これまでと異なり、法律で定められたいくつかの規定が適用された上で、一定の例外規定が置かれることになった。結果として、医学研究に携わる際には、研究倫理指針と個人情報保護法による規制の両方を理解しておくことが必要となった。
 研究倫理指針が医学研究の変化に合わせて改正され、個人情報の保護に関する規制が整備されることは、全体としては望ましい動きといえる。その一方で、規制の変化が急速で、かつ、多岐にわたるため、例えば学術研究の例外が適用される機関が研究の実態に沿っていないことが判明するなど、さまざまな混乱が生じているようである。
 本講演では、こうした研究指針および個人情報保護法制の変化とその運用の際の課題などについて、医学研究の現場に参考となることを意識しつつ、お話ししたい。