【目的】浜松医科大学医学部附属病院では通常診療に先駆けて2019年4月より、がん遺伝子パネル検査を行う治験を実施している。治験で得られた遺伝子情報により遺伝性疾患の疑いが判明した場合、患者や家族への情報開示や遺伝カウンセリングへの橋渡しが必要になる場合があることから、我々は治験実施診療科と遺伝子診療部との連携手順を構築している1)。この連携手順の運用状況および遺伝子情報の開示状況等の実態を調査し課題を検討した。
【方法】2019年4月から2022年3月の間に当院で実施した企業治験において、がん遺伝子パネル検査を受けた患者を対象に、患者背景及び開示希望の有無、開示内容、遺伝子変異の種類、遺伝カウンセリング実施の有無を後ろ向きに調査した。
【結果・考察】がん遺伝子パネル検査を受けたのは15名で、年齢は50~82歳、全例が男性だった。パネル検査実施前の意向確認では、6名が開示を希望し、9名は希望しなかった。開示希望6名中5名に病的バリアントが検出され、うち4名は二次的所見開示対象遺伝子バリアントを有していた。4名に対する開示は、2名は治験の対象遺伝子の有無のみが説明され、1名には全ての遺伝子変異の結果が説明された。残り1名については、開示に関する記録が確認できなかった。また、この4名において遺伝カウンセリングに繋がった症例はいなかったが、2名は病状悪化により遺伝カウンセリングの機会を逸していた。一方、開示を希望しない9名中7名に病的バリアントが検出され、うち4名は二次的所見開示対象遺伝子バリアントを有していたが、検査後の開示希望の再確認や、結果に対する医師見解の記録は確認されなかった。治験における遺伝学的検査は通常診療の場合と比べ、検査の目的や検査前の説明、開示内容の確認方法、得られる結果等が異なっていた。
【結論】治験で実施する遺伝学的検査はその目的や結果の扱い等、種々の点で通常のがん治療での検査と異なっており、医療者側の意識も異なっている可能性がある。検査結果によっては、患者や家族の医療および健康管理に活かすことが可能である。その有益な情報を可能な限り活用するためには、既存の手順の改善と治験で得られた遺伝子情報の取扱いについて検討が必要である。
1)木野房代「がん遺伝子パネル検査を使用した治験の取り組み」臨床薬理(0388-1601)50巻Suppl. Page S311(2019.11)