【目的】抗悪性腫瘍薬の髄腔内投与は、髄液中の薬物濃度を高く維持し、全身性の副作用が最小化される利点を有する。しかし、脳室内薬物のクリアランスは全ての患者で一律ではない。従って、安全な抗悪性腫瘍薬の髄腔内投与のためには、局所薬物動態を評価可能な環境が必要である。髄腔内投与後の髄液中薬物濃度が評価できれば、患者ごとに適切な用法・用量での化学療法が可能となる。Topoisomerase I阻害剤topotecanは、横紋筋肉腫、髄芽腫、神経芽腫などの小児腫瘍の治療に使用され、その有効性が認識されてきている。髄腔内投与後の髄液中topotecan濃度の評価は第I相臨床試験に限定され、髄液中topotecan濃度モニタリングに基づく個別化医療については未だ議論されていない。そこで本研究では、HPLCを使用した簡便かつ再現性の高い髄液中topotecan濃度測定法を開発し、その臨床応用性を確認した。
【方法】脳脊髄液中topotecan濃度を測定するためのHPLC法には、Prominence UFLCシステムおよびC18カラムを使用した。Topotecanは生理的条件下にてラクトン環が閉環したラクトン型と開環したカルボキシレート型が可逆的に平衡状態で存在する。本法では総topotecan濃度を定量するために、分析対象試料のラクトン環の状態をpH調整処理により制御した後、除蛋白処理を施した。Topotecanは蛍光検出により定量した(励起波長380 nm、発光波長520 nm)。さらに、topotecan髄腔内投与中の1歳児より脳脊髄液を採取し、本法にて脳脊髄液中topotecan濃度をモニタリングした。
【結果・考察】脳脊髄液中topotecanは試料調製時のシンプルなpH調整により、閉環型および開環型への変換が確認された。この2形態は構築した分析法により明確に分離することができ、開環型と閉環型の保持時間はそれぞれ1.3分と3.2分であった。髄液が吸収不良により停滞する患者にトポテカンを髄腔内投与後、本法を用いて、投与24、48、72時間後の脳脊髄液中topotecan濃度をモニタリングした。投与24、48時間後において、投与量を反映した脳脊髄液中濃度の定量に成功した。従って本法は、髄腔内投与後のtopotecan排泄遅延を検出可能と考える。
【結論】日常的なtopotecanモニタリングを実現することで、topotecanの髄腔内投与における投与量および投与間隔の適時調整が可能となった。本研究成果は、抗悪性腫瘍薬の髄腔内投与における個別化治療法の実現に貢献するものである。