【目的】薬をエアロゾルとして標的部位に到達させるネブライザー療法は、鼻副鼻腔疾患、咽喉頭疾患、気管・気管支疾患などの治療に汎用されている。ネブライザー使用を前提とした医薬品の治験では、発生するエアロゾルによる職員への薬剤暴露が問題となる。また、COVID-19の流行下ではネブライザー使用時の飛沫核感染も懸念される。被験者及び職員の安全を確保しつつ、医薬品開発を遅滞なく進めるため、ネブライザーを使用する治験実施時の職員暴露・院内感染予防対策マニュアルを作成した。
【方法】「ナノマテリアルに対するばく露防止等のための予防法対応について」(平成21年3月31日付基発第0331013号)、「新型コロナウイルス感染症流行下におけるネブライザー療法の指針」(日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会)などの通達やガイドラインを参考に、院内感染予防を意識しつつ労働衛生の視点で対策を検討した。
【結果】労働衛生の3管理を意識したマニュアルの概要を示す。1)作業環境管理:治験薬やエアロゾルの作業環境測定は困難なので換気に力点を置いた。投薬専用スペースを確保し、局所排気装置(Free-100M)を設置した。スモークチェッカー等で気流を確認し、換気が適切になるよう努めた。2)作業管理:ガウンやゴーグル、マスク等の着用、エアロゾル発生源からの距離確保、被験者毎のネブライザー機器の準備、使用後の滅菌などの作業規程を作成した。3)健康管理:被験者、職員に対するPCR検査の実施、事前の体調・行動確認を行った。職員に対する一般定期健康診断の結果にも留意した。これらの他、衛生教育として、院内感染予防対策、治験薬の特性、健康影響の可能性、作業環境管理対策、個人用保護具使用等の事項を職員に教育した。
【考察・結論】ネブライザーで発生するエアロゾルに含まれる薬がきわめて少量で安全性に問題はないと考えられても、治験薬を投与されることに同意していない職員のばく露に対し対策を講じないことは問題がある。労働安全衛生の分野では、エアロゾルやナノマテリアルのばく露を低減させるため、呼吸用保護具や局所排気装置などの工学的対策を組み合わせた多重防護策がとられている。ウイルスや薬物分子のサイズがナノレベルであることから、労働衛生的対策は薬物ばく露の低減のみならず、院内感染予防策としても有用と考える。