「薬を使わない医者はいません。」
 これは恩師の小林真一先生のお言葉ですが、内科から薬理学講座に異動になった私には非常に心に響きました。非薬物療法を専門とする不整脈医でしたが、当然、上手に薬を使えないと診療は出来ませんので、小林真一先生のもとへ異動になったことは、内科医の私には本当にラッキーだったと思います。教授と同僚の先生、他学の臨床薬理医、研究者、CRCの皆様に囲まれ、今日まで育てていただきました。日本臨床薬理学会での諸活動はもちろん、臨床薬理研究振興財団の講習会、阿蘇九重カンファレンス、浜名湖カンファレンス、富士五湖カンファレンスなど、多くの学会・研究会にも参加させていただきました。それは自身が未熟な医師であることを感じる毎日でした。そこで習う事の多くが、日常臨床に大変に役立つものだと何度も実感したものでした。
東京大学CBELのコースに半年通わせていただき、また学会主催のCRC海外研修員の通訳として同行した経験は、臨床研究と関係する倫理の学修に大変に役立ちました。内科医が論理的思考を駆使出来るようになるには、臨床研究の理解が大事なのだと言う事もこの過程で教えていただいたと思います。
 実は私の臨床薬理学との出会いは「シメチジンは不思議な薬」という経験だったと思います。研修医の時、「どうしてこの薬は添付文書に書かれていない副作用が色々と出てくるのだろう」と疑問を持ちました。胃潰瘍による出血症例も多く、H2ブロッカーには大変お世話になっていた時代で、シメチジンを多数処方しておりましたが、「ファモチジンの静注が胃潰瘍の止血には一番だよね」という噂のようなものを根拠に、徐々にシメチジンの処方量は減り、興味は薄れていきました。しかしその後「臨床薬理学」を勉強し、その疑問が解けた時の事は鮮明に記憶しています。この経験は、私自身が「全ての医師に臨床薬理学を勉強してほしい」と思う原動力なのかもしれません。内科医としての腕が本当に上がったかは、もう少し医者を続けないと判りませんが、臨床薬理学の知識の習得が医師の能力を向上させるのは間違いありません。
この度は私の経験をお話する事で、臨床薬理学を教えて下さった皆様への感謝をお伝えするとともに、後進の皆様には「臨床薬理学は面白い」と思っていただけることを祈っております。