炎症性腸疾患(IBD)は、潰瘍性大腸炎やクローン病に代表される慢性腸炎の病態である。腸炎の慢性化機序は、未だ解明されていないが、IBDは、環境・遺伝要因が関与する多因子疾患と考えられている。IBD診療において、様々なバイオ医薬品が登場しており、抗体製剤の適正使用が求められている。代表的なバイオ製剤は、Tumor Necrosis Factor α(TNFα)に対する抗体製剤であり、インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブがIBD領域で承認されている。特に、インフリキシマブやアダリムマブの免疫抗原性は、ウステキヌマブやベドリズマブといった最近のバイオ製剤と比較すると高い。ヒト・マウスキメラ型抗体であるインフリキシマブの方が、ヒト型抗ヒトTNFαモノクロナール抗体であるアダリムマブよりも抗原性が高いと考えられており、一般的に、インフリキシマブへの薬剤抗体産生率は約15%、アダリムマブでは約10%と報告されている。したがって、実臨床において、インフリキシマブやアダリムマブの2次無効がしばしば問題となる。その際、TNFα阻害作用が無効の免疫病態に移行したのか(mechanistic escape)、単に薬剤量が不足しているのか、あるいは薬剤に対する抗体が産生されたのかといった2次無効の機序を理解することが重要となる。この鑑別のためにTherapeutic Drug Monitoring(TDM)が有用であり、米国では、TDMの結果に基づき、治療方針を決定している。一方、日本では、TDMは未だ一般的ではなく、臨床症状、炎症マーカー、内視鏡所見などを参考にして、次の治療法を決めている。関節リウマチ、乾癬、IBDなどの免疫介在性疾患を対象とした最近のランダム化比較試験において、インフリキシマブのTDM実施群と非実施群の臨床的寛解率を比較した結果、両者に統計的有意差を認めなかった。このことから、IBD診療において、TNFα阻害薬のTDMが、どのような臨床的意義を有するのかに関しては、未だ議論の余地がある。そこで、本講演では、IBD治療薬とそのTDMの臨床的意義を、最近のエビデンスとともに概説する。