がんの罹患数は世界的に増加しているが、がん治療の進歩はめざましく、化学療法と免疫療法の併用療法などの複合的な治療法が次々に開発され、がん患者の予後は著明に改善しており、全がんの年齢調整死亡率は減少している。その結果、がんサバイバーの増加が報告されており、今後もがん化学療法を受ける患者数が増加し続けることが予想される。一方で、がん化学療法施行時には、悪心・嘔吐、腎障害、心機能障害、末梢神経障害などの多岐にわたる有害事象が高頻度に起こるが、臨床で行われている副作用対策では防ぎきれていないのが現状である。抗がん剤誘発有害事象は患者のQOL低下、さらには治療継続困難や予後不良につながる重大な影響を与えるため、抗がん剤誘発有害事象の予防法の開発は臨床上解決すべき重要な課題となっている。
近年、我が国においても、有害事象自発報告データベースやレセプトデータベースなどの医療ビッグデータを用いた研究が展開されている。臨床における多様な患者層・様々な因子を内包する医療ビッグデータを用いた解析により、様々な副作用に対して実臨床で効果があると推測される予防薬候補を見出すことが可能になる。しかし、実臨床で収集された医療ビッグデータには欠損値や報告バイアスなどがある点や、医療ビッグデータ解析の結果だけでは因果関係や作用機序を明確に示すことは難しい点に注意が必要である。そこで、我々は医療ビッグデータ解析と遺伝子発現データベース解析を組み合わせて、より確からしい結果を選別し、ビッグデータ解析で抽出された予防薬候補の有効性を基礎薬理学的手法によって検証することにより、臨床応用可能性の高い予防薬の開発に繋げることを目指した。
本シンポジウムでは、医療ビッグデータ解析と基礎研究を融合した新しい研究手法を用いた抗がん剤誘発副作用に対する新規予防薬の開発研究によって得られた成果を紹介する。