わが国の医薬品開発の課題は非臨床試験から早期臨床開発試験基盤の脆弱さであった。当院は2015年より臨床研究中核病院(2021年より橋渡し支援機関認定)として(1)VCとの共同による国内ベンチャー企業育成プログラム:ベンチャー企業への薬事・出口戦略およびVCのマッチングによる資金調達支援、(2)国内外アカデミアシーズの医師主導治験実施基盤構築:センター内外の多数シーズのFIH試験実施と企業導出サポート、(3)産学連携による大規模rTRおよび企業シーズのグローバル開発基盤整備:SCRUM-Japanなど産学連携による最先端ゲノム・マルチオミックス、免疫機能解析を医師主導・企業治験ベースでの附随研究として展開し、次の創薬標的発見、臨床開発迅速化や日本がイニシアチブをとったグローバル開発治験での薬事承認取得など当院主導で実施した医師主導治験は累計50試験を超える。 以上の取り組みにより、新規肺がんドライバー遺伝子の発見(Nature 2021)、HER2大腸がん医師主導治験データでの世界初の薬事承認取得(Nature Med 2021)、わが国発の新規ADC製剤T-DXdのFIH試験(Lancet Oncol 2017)と引き続く胃がん国際治験(NEJM 2021)とグローバル薬事承認取得。アカデミアシーズでもNCIと共同での光免疫療法、京都大学と共同でのiPS細胞によるCAR-NK細胞療法FIH医師主導治験などイノベーティブな治療開発を展開中である。 ゲノム・トランスクリプトーム解析による腫瘍および周囲微小環境(TME)の動態モニタリングなど技術革新は日進月歩であり、ADCや二重特異抗体などの成功で創薬標的スクリーニングが網羅的なゲノム解析から詳細な臨床情報を付加したTMEを含むマルチオミックス解析にシフトしている。SCRUM-Japanではすでに米国先端企業の最新技術によるマルチオミックス解析を世界で初めて導入し、国内および韓国・台湾ベンチャー企業などのシングルセル解析、AIなど最先端の解析技術も加え、世界最先端の創薬・個別化治療開発プラットフォームを構築中である。また、本活動が世界的に評価され、国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC-ARGO)からの招請で世界的な創薬を目指したグローバル臨床・マルチオミックスデータベースを当院メンバーが中心的に構築開始している。 わが国から世界に通用するイノベーティブな薬剤開発を進めるための臨床開発・rTR基盤は整いつつあり、今後これらを活用したアカデミアシーズでのグローバル開発も目指している。