「インフォームド・コンセント」という概念が日本に輸入されてからすでに40年以上が経ち、この間、様々な課題を抱えつつも医療現場において一定の定着を見ている。特に臨床研究・治験においては、一般の医療現場より先にインフォームド・コンセント概念が導入された経緯があり、その重要性は強く意識されてきた。
 その一方で、現在の臨床研究・治験におけるインフォームド・コンセント概念は必ずしもすっきりとしたものにはなっていない。というのも、様々な場面で古典的なインフォームド・コンセント概念の限界が強く認識されるようになるとともに、現実の臨床研究・治験においても多様な「同意」のあり方が出現しているからである。例えば、e-consentの導入やバイオバンクやデータベースにおける広範同意(broad consent)、さらには診療情報の利活用におけるオプトアウトもその一つである。さらに国際的には、説明項目の増大による説明文書の長文化問題が批判的に検討されるとともに、リスクの低い臨床試験(いわゆるpragmatic clinical trials)への同意要件の緩和の可能性も議論されている。これは言い換えれば、リスクの高い臨床試験を念頭に置いて作られた当初のインフォームド・コンセントのモデルだけでは立ち行かない状況になっていることを示している。
 そこで、本講演ではこうした動向を整理しつつ、古典的なインフォームド・コンセント概念の再構築を試みる。その際、具体的には日本の「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」の同意手続に関する規定を取り上げる。現在、指針の定める同意手続きは極めて複雑なものになっており、研究者が理解できるレベルをはるかに超えている。この背景には指針が多様な研究をカバーしてきたことあるが、それだけではない。本講演では指針の同意手続の現状と課題を整理することを通じて、今後私たちがどのように多様な「同意」のあり方と向き合うべきかを考える一助としたい。